第4話 ゲーム機の電源で彼女を泣かせた話
牛丼で未来が見えた一週間後。
僕たちは、なぜか同棲していました。
大人の同棲とは、互いの時間を尊重する高度な契約関係。
そう思っていた僕は――
ゲーム機の電源で、大事なものを削ります。
今回は、未来の旦那が“向き合う”を学ぶ話です。
牛丼で未来が見えた一週間後。
話はなぜか同棲に進んだ。…急に展開が速くなった気がするが気のせいだ。
たぶん。
「まずは一週間、お試しで」
軽い。
だが内容は重い。
僕は思っていた。
大人の同棲とは、互いの時間を最大限に尊重する高度な契約関係だと。
干渉しない。
束縛しない。
各自の趣味は神聖不可侵。
なぜなら僕は、ゲームが好きだ。
特に ドラゴンクエストX。
オンラインの世界で、僕は勇者にも賢者にもなれる。
平日3時間。
休日8時間。
冷静に書くと、少し引く数字だ。
同棲となれば減るかもしれない。
だが僕は思っていた。
「分かり合えるはずだ」と。
牛丼を理解する女だ。
ゲームも理解するに決まっている。
――甘かった。
朝は一緒に起きる。
僕が朝食を作る。
7時半、彼女を最寄り駅まで送る。
ちなみに僕は塾屋だ。出勤は13時過ぎ。
午前中、時間は潤沢にある。
彼女を送り届けたあと、
晩ごはんの作り置きをし、洗濯物を干す。
ここまで完璧。
そしてその後は――ゲームだ。
午前のプレイ時間は半分になった。
だが不満はない。
むしろ僕は思っていた。
(俺、完璧な彼氏では?)
朝ごはんを作り、駅まで送り、家事もこなす。
その上で趣味も持つ。
理想的だ。
バランス型人間だ。
――と、勘違いしていた。
僕の帰宅は23時。
彼女は朝が早いのに、起きて待っている。
「寝てていいのに」
そう思いながら、
作り置きの晩ごはんを温め、食卓へ。
そして自然な流れで
ゲーム機の電源を入れる。
食べながら操作。
いつもの日常。
彼女が話しかける。
「今日ね、職場で――」
「うん」
「それでさ――」
「へえ」
視線は画面。
指はコントローラー。
僕は“同じ空間にいる”という事実で満足していた。
だがそれは、共存であって共有ではない。
それは罪だった。
その夜。
ベッドで、彼女が泣いていた。
静かに。
声を殺して。
僕は凍った。
「どうしたの?」
彼女は少し間を置いて言った。
「話しかけても、生返事だから……悲しくなった」
胸の奥に、重い石が落ちた。
家事はしていた。
送り迎えもしていた。
時間も減らしていた。
でも。
一番大事な“向き合う”を、していなかった。
僕は気づく。
僕が守っていたのは
彼女との時間ではなく、
自分のゲーム時間だった。
勇者は画面の中にいた。
現実の彼女は、隣で泣いていた。
これは致命的だ。
その日以降、僕は誓った。
22時以降、ゲームはしない。
ルール制定。
自分への法令遵守。
真面目な男は、失敗するとすぐ規則を作る。
ちなみに結婚後の現在。
22時以降のゲームは“宣言制”になっている。
「新しい新作を買うんだ…22時以降ゲームする日出来て良い?」
申請。
承認。
プレイ開始。
なお、スマホアプリはゲームではないという
僕の独自理論を、妻は呆れながら黙認してくれている。
僕はその優しさを最大限活用している。
あの一週間で学んだこと。
人は、同じ空間にいるだけでは満たされない。
会話は、ながらでは成立しない。
そして。
ゲームはセーブできるが、
関係はセーブポイントが見えない。
牛丼で未来を見た僕は、
この日ようやく理解した。
安心して帰ってこれる場所とは、
静かな部屋ではなく、
ちゃんと話を聞いてくれる人がいる空間のことだ。
未来の旦那は、
まだレベル上げの途中である。
たぶん。
読んでいただきありがとうございます。
ゲームはセーブできますが、
関係はセーブポイントが見えません。
この一件で、僕は初めて
「同じ空間」と「同じ時間」は違うと知りました。
ちなみに、22時以降のゲーム申請制度は
今も運用されています。
どこまでが創作で、どこまでが実話か。
……そのあたりは、妻のみぞ知るということで。
次回。
真面目な男は、さらに大きな試練と向き合います。
未来の旦那、次はくしゃみと闘います。
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