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第91話:管理の境界


ギルドの奥、静まり返った応接室。


アルノーは、兄イグノスと監視院の筆頭官と対峙していた。


卓上には、没収された数枚のプレートが並んでいる。


「アルノー。お前のしたことは、国家の術式管理法に対する明白な抵触だ」


イグノスの声は、実の弟に向けるものとは思えないほど事務的だった。


「未登録の魔道具を外部に流布し、ギルドの公的な統計を意図的に狂わせた。本来なら、厳重な処罰が下る案件だ」


アルノーは静かにイグノスの眼鏡の奥を見つめた。


「……狂わせたのではありません。歪みを、本来あるべき形に直しただけです。その方が、事故も減り、無駄な魔力消費も抑えられる」


「その『独自の正解』が、王国の秩序を揺るがすと言っている」


イグノスは一枚の書類を突き出した。


「だが、その成果自体は否定しない。よってお前には、厳重注意と共に、以下の条件を課す」


「条件、ですか」


「プレートはすべて監視院が研究対象として回収する。お前は学園に戻り、通常の授業を受けろ。ただし、今後新しい術式や道具を開発する際は、必ず監視院へ届け出ること。勝手な流布は二度と許さない」


それは、才能を認められた名誉ではなく、自由を奪われた監視の宣告だった。


「ギルド側には、今後プレートの不具合や、お前の関与した箇所で変異があれば、即座に監視院へ通報するよう命じてある」


アルノーは少しだけ視線を落とした。


「……分かりました。僕は、僕の信じる美しさを追究するだけですから」


「その美しさが、いつかお前自身を壊すことになるぞ」


イグノスの言葉に、アルノーは答えなかった。


ただ、袋に詰められたプレートが重なり、わずかに術式の位相が乱れているのが気にかかる。


「……兄様。その箱の底、右側に少し隙間があります。そのまま運ぶと、中の均整が崩れますよ」


イグノスは返事もせず、足早に応接室を去った。


学園という「内側」に戻ることは許された。


だが、そこは以前のような自由な学び舎ではない。


国家という巨大な眼が、アルノーの描く「満月」を、常に外側から観測し続ける場所へと変わっていた。

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