第87話:静かな変化
冒険者ギルドの朝は早い。
依頼板の前に、すでに数人が集まっている。
アルノーは静かに中へ入る。
手には、木板。
葉脈均整検査の簡易プレート。
受付の横で、副長が書類を見ている。
几帳面な視線。
一瞬だけこちらを見る。
「それが例のものか。」
「はい。」
短いやり取り。
説明はしない。
まずは使う。
薬草採取の依頼。
Gランク。
森の浅い場所。
依頼地に着く。
主人公は木板を取り出す。
「これを使います。」
葉を置く。
微弱励起。
光が広がる。
均一。
「これが薬草です。」
副長が覗き込む。
「……わかりやすいな。」
別の葉。
光が揺れる。
「これは違う。」
副長が腕を組む。
「触らなくていいのか。」
「はい。外周が教えてくれます。」
一人で採取する。
迷いが減る。
手が止まらない。
結果は明確だった。
誤採取、ゼロ。
ギルドに戻る。
受付で袋を渡す。
職員が中身を確認する。
一枚ずつ。
表情が変わる。
「……全部、正確です。」
周囲が少しざわつく。
Gランクでこれは珍しい。
副長が近づく。
袋を受け取る。
自ら確認する。
無言。
一枚。
二枚。
三枚。
すべて正しい。
「再現性はあるか。」
「あります。」
「誰でも使えるか。」
「微弱魔力で動きます。」
副長は木板を見る。
しばらく。
沈黙。
「貸せ。」
短く言う。
次の依頼。
別の組に渡される。
数時間後。
戻ってくる。
結果は同じ。
誤採取、ほぼゼロ。
副長が記録を取る。
数字を書き込む。
「誤採取率、従来三割。」
「本日、一割未満。」
淡々とした声。
だが止まらない。
書き続ける。
ギルド長が奥から出てくる。
大きな足音。
「なんだ、朝から騒がしいな。」
副長が紙を渡す。
ギルド長が目を通す。
一瞬で理解する。
笑う。
「面白ぇ。」
主人公を見る。
「坊ちゃん、強くはねぇな。」
事実。
否定しない。
「だが。」
木板を軽く叩く。
「現場を変えやがる。」
周囲の空気が少し変わる。
尊敬ではない。
だが。
無視できない。
副長が言う。
「正式配備はまだだ。」
「だが試験運用を続ける。」
「結果次第で評価を更新する。」
アルノーは首を傾げて、
「前にも言いましたが、魔力も多くないので、可能な限りGランクがよいです。」
ギルド長は腕を組み直して、
「ここまで、評価を上げて、ランクを上げないとこちらが冒険者の不当評価になってしまう。」
「国からの罰則もあるので、ここは俺の顔を立ててくれよ。」
アルノーは頷くしかなかった。
魔力量も変わらない。
だが。
環境が変わる。
薬草依頼の精度が上がる。
無駄が減る。
事故が減る。
静かに。
確実に。
ギルド長が背を向けながら言う。
「学園を変えるか、または国を変えるか」
副長は答える。
「私の評価は高いですよ。」
ギルド長が笑う。
「それがあいつにとって、一番厄介だ。」
木板は小さい。
だが。
刻みは広がる。
静かな変化が、始まっていた。




