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第86話:刻みを形にする



アルディウス魔法陣修復工房。


扉を押すと、乾いた金属音とインクの匂いが混ざる。


壁には修復中の結界板。


床には削り屑。


「来たか。」


低い声。


アルディウスが振り返る。


主人公は週に二、三度ここで働く。


外周補修と均整調整が主な仕事だ。


「今日は修復ではないのか?」


「試作を。」


主人公は端材を手に取る。


薄い木板。


刻み始める。


完全円ではない。


わずかに歪ませる。


湿度と反響に強い均整。


そこへ、軽い足音。


「また、丸じゃない。」


小さな声。


振り向くと、亜人の少女が立っている。


小柄。


耳が少し尖っている。


工房で細かい刻印補助をしている子だ。


「丸は綺麗なのに。」


「丸は強いです。」


主人公は言う。


「でも、揺れます。」


少女は近づき、板を覗き込む。


「揺れない形?」


「揺れにくい形です。」


中心に微弱励起陣を刻む。


増幅はしない。


目的は反応の可視化。


「何を見るの?」


「葉脈の刻みです。」


薬草を置く。


魔力を流す。


淡く均一に光が広がる。


少女の目が丸くなる。


「きれい……」


次に別の葉。


流す。


外周がわずかに乱れる。


光が斑になる。


少女が首を傾げる。


「さっきと違う。」


「毒草です。」


少女は目を細める。


「中が、ざらざらしてる感じ。」


主人公は一瞬、驚く。


「……分かりますか。」


「うん。揃ってない。」


亜人は杖を持たない。


身体感覚で読む文化。


彼女は揺れを感じている。


アルディウスが腕を組む。


「ほう。」


「内部循環を拾っているな。」


主人公は頷く。


「治癒草は刻みが均整。」


「毒草は偏りがあります。」


少女がぽつりと言う。


「整ってると、安心する。」


静かな言葉。


主人公は少し息を止める。


整える。


それが自分の理論。


「これをギルドで使う。」


主人公が言う。


「誤採取を減らします。」


少女が笑う。


「みんな楽になるね。」


アルディウスは板を軽く叩く。


「未完成だ。」


「だが、美しい。」


主人公は外周をもう一度撫でる。


重ね過ぎず。


削り過ぎず。


完全ではない。


だが。


揺れない。


少女が言う。


「名前つけるの?」


主人公は答える。


「葉脈均整検査。」


少女は満足そうに頷く。


「きれいな名前。」


刻みは。


触れれば分かる。


だが形にすれば、共有できる。


炉の火が静かに揺れる。


板の光は揺れない。


整える。


それが今の自分の役割だった。

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