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第7話:形を待つ



それからというもの、アルノーはときどき中庭に足を向けるようになった。


理由を聞かれても、うまく答えられなかっただろう。


夕暮れの空気は昼よりも柔らかく、石畳に落ちる影も長い。


中庭の隅では、昨日と同じ使用人が立っていた。


アルノーは少し離れた場所で足を止める。


気づかれない距離だった。


使用人が手を掲げる。


淡い光が生まれる。


昨日より、揺れは小さい。


けれど、まだどこか定まらない。


わずかに膨らみ、すぐに歪む。


形になりきる前に、ほどけてしまう。


アルノーは黙って見ていた。


なぜだろう、と考える。


けれど答えは出ない。


ただ一つ、分かることがある。


揃いきる前に崩れている。


しばらくして光は消え、使用人は小さく息を吐いた。


「……難しいな。」


独り言のようだった。


アルノーは少し迷い、それから近づいた。


足音に気づいた使用人が振り返る。


「あ、若様。」


「さっきの。」


アルノーは光があった場所を見る。


「もう少しだったね。」


使用人は目を丸くしたあと、照れたように笑う。


「お恥ずかしいところを。なかなか形が保てませんで。」


アルノーは少しだけ考える。


言葉が浮かびかけて、消える。


どうすればいいのかは、分からない。


だから何も言わない。


代わりに、もう一度その場所を見た。


風が吹く。


先ほどまで光があった空間には、何も残っていない。


「若様は、魔法にご興味がおありですか?」


使用人の問いに、アルノーはすぐには答えなかった。


興味――なのだろうか。


しばらく考えてから言う。


「……見てると、気になる。」


それが一番近い気がした。


使用人は穏やかに頷く。


「きっとすぐに慣れます。多少揺れるものですから。」


アルノーはその言葉を聞きながら、もう一度だけ首を傾げた。


揺れるもの。


本当に、そういうものなのだろうか。


もし揃ったなら、もっと静かにそこに在る気がする。


理由は分からない。


ただ、そう思った。


「また、見に来てもいい?」


思わず口にしていた。


使用人は驚いたように瞬きをし、それから笑った。


「もちろんでございます。お見苦しくなければ。」


アルノーは小さく頷いた。


中庭を離れながら、先ほどの光を思い出す。


あと少しで形になりそうだった。


それなのに、揃わない。


足りないものがあるように見えるのに、それが何なのかは分からない。


分からないまま、気になり続ける。


振り返ると、中庭はすでに薄闇に包まれていた。


アルノーはしばらくその静けさを見つめ、それから屋敷の中へ戻っていった。


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