第74話:二瞬目
灰棟の朝は早い。
石畳はまだ夜気を残している。
「立て。」
ガルドの声。
アルノーは木剣を握る。
腕が重い。
昨日の衝撃が残っている。
「均衡は武器だ。」
ガルドは構える。
「だが、武器は腕が振れなきゃ意味がねぇ。」
踏み込み。
速い。
アルノーは受ける。
均す。
外周を整える。
補助線を引く。
重心を固定。
止まる。
一瞬。
空気が凪ぐ。
だが。
次の瞬間。
衝撃が抜けきらない。
足が滑る。
後退。
「遅い。」
ガルドが言う。
「止めた後、空白がある。」
アルノーは呼吸を整える。
確かに。
止めた瞬間、自分の身体が“止まり過ぎる”。
均衡は静止だ。
だが戦いは動き続ける。
「もう一度。」
踏み込み。
均す。
止める。
今度は止めた瞬間、
半歩、ずらす。
衝撃が抜ける。
耐える。
二瞬。
だが三瞬目で崩れる。
膝が震える。
「身体が先じゃねぇ。」
ガルドが言う。
「遅れてるのは、判断だ。」
ルクスが壁にもたれている。
「固定し過ぎだ。」
「流れを切るな。」
双子が揃って笑う。
「止めるなら、逃げもセット。」
「均衡のあと、空間を空けろ。」
アルノーは木剣を握り直す。
止める。
ではなく。
“均して、渡す”。
ガルドが踏み込む。
均す。
半歩ずらす。
双子が横から入る。
連携。
初めて、衝撃が抜ける。
ガルドが止まる。
「……今のは悪くねぇ。」
息が荒い。
だが倒れない。
二瞬と半。
月はまだ低い。
欠けている。
だが形はある。
アルノーは思う。
均衡は止めることではない。
支えることだ。
「伸ばせ。」
ルクスが言う。
「一瞬を、重ねずに。」
アルノーは立つ。
まだ弱い。
だが、
崩れなかった。
一度も。
ここから、積む。
灰の上に。




