第69話:中間の温度(B組視点)
王立魔導学園・B組棟。
窓際の席で、レオン・ヴァルハルトは杖を回していた。
手触りの良い魔導木。
家は地方貴族。
家格は中流。
A組には届かなかった。
C組に落ちるほどでもない。
「……まあ、妥当だ。」
成績票を机に置く。
魔術量B。
体術B。
理論A。
悪くない。
B組の中では1位
だが、誇れるほどでもない。
向かいの席の少女が言う。
「C組に理論SSがいるらしいよ。」
「最下位の?」
「うん。魔術量Fだって。」
教室がざわつく。
レオンは眉をひそめる。
「それ、意味あるのか?」
「さあ。でも理論の最後の問題、王立式を修正したとか。」
「修正?」
王立の式は完成形だ。
そう教わってきた。
「重ねを削ったらしい。」
レオンは鼻で笑う。
「削る? 安定が落ちるだろ。」
「でも効率は上がったって。」
「効率と安定は違う。」
それは王立の基本だ。
重ねる。
厚くする。
増幅する。
王国の思想そのもの。
だが。
別の席から声が飛ぶ。
「俺、模擬戦見た。」
体術上位の少年だ。
「一撃だけ入れた。体術Eのくせに。」
「まぐれだろ。」
「いや、均してた。」
「は?」
「相手の重心の偏りを見て、踏み込みを半歩だけずらした。」
教室が静まる。
均す。
削る。
同じ言葉だ。
レオンは少しだけ考える。
A組は完成者。
C組は欠落者。
自分たちは中間。
だがもし、
完成が重ねることで、
欠落が削ることなら、
中間は何をすべきなのか。
少女がぽつりと呟く。
「理論SSに“印”が付いてたらしいよ。」
「印?」
「学園側が“要観測”って。」
ざわめき。
それは称賛でも否定でもない。
様子を見る、という意味。
レオンは窓の外を見る。
A組棟が遠くに見える。
そのさらに奥にC組棟。
「削るってのはさ。」
彼は静かに言う。
「勇気がいる。」
教室の何人かが顔を上げる。
「重ねるのは安全だ。厚くすれば崩れない。」
「でも削ったら、失敗すれば終わりだ。」
誰も否定しない。
レオンは立ち上がる。
「まあ、俺は重ねるけどな。」
笑いが起きる。
だが胸の奥に、小さな違和感が残る。
本当に重ね続けるだけでいいのか。
B組は揺れている。
怪物でも、欠落でもない。
だからこそ。
一番、影響を受けやすい。
窓の外、雲が月を隠していた。
満ちてもいない。
欠けてもいない。
ただ、中間。
B組は、そんな場所だった。




