第6話:揃わない光
中庭には、放課後のような静けさがあった。
もっとも、アルノーはまだ学園に通ってはいない。ただ屋敷の裏手にあるこの中庭の一角の広場は、時折、使用人たちが簡単な魔法を試す場所になっていた。
石壁に囲まれた空間の中央に、若い使用人が一人立っている。
その少し離れた場所で、アルノーは様子を眺めていた。
「いきます。」
小さな声とともに、使用人が手を掲げる。
次の瞬間、指先に淡い光が灯った。
ふっと浮かび上がる、白に近い光。
けれど、それはどこか不安定だった。
わずかに揺れている。
形も、定まらない。
丸くなりかけては崩れ、また集まる。
アルノーは黙って見ていた。
やがて光は小さく弾け、空気に溶けるように消えた。
「あ……」
使用人が息を漏らす。
失敗した、というほどではない。
だが、成功とも言い難い。
「難しいものだな。」
近くにいた庭師が、腕を組みながら言った。
「ええ。形を保つのが、どうにも。」
使用人は苦笑する。
アルノーは少しだけ首を傾げた。
「どうして、揺れるんだろう。」
誰に向けたわけでもない、小さな声だった。
庭師が気づき、振り向く。
「若様。魔法は生き物のようなものでしてな。思う通りにいかぬことも多いのです。」
アルノーはもう一度、先ほど光があった場所を見る。
もし揃っていたなら、もっと静かだった気がする。
そんな考えが浮かぶ。
「……丸くならないんだ。」
「丸く?」
「さっきの。少し、形が違ってた。」
庭師は目を細めたが、やがて笑った。
「そこまで見ておられるとは。私は光っただけで十分だと思っておりましたよ。」
アルノーは答えなかった。
光を思い出す。
集まりきらない線。
保てない輪郭。
月の欠けた形が、ふと重なる。
しばらくして、使用人がもう一度手を掲げた。
再び光が灯る。
先ほどよりは安定している。
だがやはり、どこかが揃わない。
アルノーは無意識に指先を握っていた。
整えばいいのに、と思う。
ただ、それだけだった。
風が中庭を抜ける。
光は小さく揺れ、やがて静かに消えた。
アルノーはその場所を見つめたまま、しばらく動かなかった。




