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第64話:杖を持たない者


魔術実技の翌日。


C組の教室。


セラフィナが言う。


「次回から各自、杖を持参しろ。」


ざわめき。


「王立学園支給の標準杖でよい。」


エリオットが振り向く。


「忘れたら、恥ずかしいな」


ダリオンが笑う。


アルノーは黙る。


持っていない。


いや。


持つ選択肢がない。


灰棟に戻る途中。


その言葉が蘇る。


――杖を持つな。


家庭教師、ヴェルドの声。


「なぜですか。」


以前の問いが蘇る。


彼は答えた。


「杖は外部増幅器だ。」


「魔力の流れを“足し乱す”。」


「だが君は観測型だ。」


「足せば崩れる。」


アルノーは当時、理解していなかった。


だが今は分かる。


今日の重ね式。


あれに杖を使えば、余剰が出る。


振幅が暴れる。


「……危ない。」


灰棟の部屋。


机に手を置く。


王立では杖は常識。


持たない者は珍しい。


だが。


自分の式は、内側で完結する。


外部補助が入れば、崩れる。


翌日。


演習場。


全員が杖を構える。


細長い標準式媒体。


セラフィナが気づく。


「アルノー。」


「杖は。」


「持っていません。」


ざわめき。


ダリオンが小声で言う。


「やっちまったか。」


教官が近づく。


「理由は。」


アルノーは少し考える。


「自分の流れが乱れます。」


沈黙。


「増幅が過剰になります。」


セラフィナは目を細める。


「理屈は。」


アルノーは言う。


「私の式は均等を取るように修正しています。」


「杖で増幅すると、振幅が跳ねて自分の中の安定性が崩れます。」


教官は少し考える。


「試せ。」


標準式。


杖あり。


アルノーが魔力を流す。


光が一瞬強くなる。


次の瞬間、揺れる。


消える。


静寂。


「……なるほど。」


セラフィナが言う。


教官は一拍置き、言う。


「持たなくてよい。」


ざわめき。


「だが。」


目が鋭くなる。


「王立学園で杖を持たないのは他にもいるが悪目立ちすることは覚えておけ。」


アルノーは静かに答える。


「問題ありません。」


演習が始まる。


杖を持つ者たち。


持たない一人。


足す者たち。


光が揺れる中、アルノーの式は静かだ。


増幅はない。


だが均一だ。


遠くから、A組の演習光が見える。


満ちている光。


こちらは細い。


だが、揺れない。


アルノーは思う。


――杖は、要らない。


その選択が、やがて大きな意味を持つことを、彼はまだ知らない。

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