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第55話:王国の成り立ち



最初の授業は、魔術ではなかった。


黒板に書かれたのは大きな文字。


王国史


C組の空気がわずかに緩む。


「眠くなるぞ」とダリオンが小声で言い、エリオットが肘で小突いた。


教壇に立つのは壮年の男教師だった。


灰色の髪を後ろで束ね、声は静かだがよく通る。


「王立魔導学園は、いつ創設されたか知っている者はいるか。」


数名が手を挙げる。


「237年前。」


「正確には239年前だ。」


教師は頷く。


「では、なぜ創設された?」


沈黙。


「魔法の暴走を抑えるためだ。」


黒板に“亜人戦争”と書かれる。


教室の空気が変わる。


「かつて王国は、複数の大貴族がそれぞれ魔法を独占していた。」


「魔法陣は家ごとに異なり、理論は共有されなかった。」


「その結果、何が起きたと思う?」


エリオットが小声で言う。


「市場独占の失敗みたいなものか?」


ダリオンは腕を組む。


「戦争だろ。」


教師は頷く。


「その通りだ。」


黒板に円が描かれる。


いびつな円。


「魔法は強力だ。だが、整っていなかった。」


アルノーの指がわずかに動く。


整っていなかった。


「各家の理論は部分的だった。」


「互いに干渉し、暴走を起こした。」


「その混乱の中で、“亜人”と呼ばれる存在が現れたと記録されている。」


ざわめき。


教師は淡々と続ける。


「それが真実かは議論がある。」


「だが事実として、王国は崩れかけた。」


黒板のいびつな円に線が引かれる。


「そこで王家は魔法を一元管理する制度を作った。」


「それが王立魔導学園だ。」


アルノーは円を見る。


いびつだ。


だが。


教師は新しい円を描く。


今度は整った円。


「秩序は作るものだ。」


その言葉が教室に落ちる。


アルノーは心の中で反芻する。


――作る?


教師が続ける。


「王立は、平民も貴族も獣人もどの種族も区別しない。」


「才能は王国の資産だ。」


「ゆえに、ここでは身分は意味を持たない。」


エリオットが真剣な顔で頷く。


商業家として、理屈は理解できる。


ダリオンは窓の外を見る。


鍛冶屋にとって、秩序は火の中にある。


アルノーは円を見続ける。


いびつな円。


整った円。


だが。


完全な円は、描かれていない。


教師が最後に言う。


「魔法は芸術ではない。」


「機能すればよい。」


その瞬間。


アルノーの胸に、小さな違和感が走る。


機能すればよい?


それだけでよいのか。


黒板の整った円を見ながら、彼は思う。


世界は美しいと証明したい。


教室の外で風が鳴る。


世界は広い。


王国は秩序の上に成り立っている。


だが。


その秩序は、完成形ではない。


アルノーは小さく息を吐く。


――世界は、美しくできているはずだ。


その確信は、まだ揺らいでいない。

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