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第53話:灰棟の住人



「もう新人来たのか?」


階段を降りてきた声の主は、長身の青年だった。


短く刈った黒髪。

腕には包帯が巻かれている。

体は引き締まり、無駄がない。


「騒ぐな、ガルド。」


ルクスが低く言う。


「騒いでねえ。」


青年は笑った。


「一年か?」


「はい。アルノー・ヴァレリウスです。」


「ガルドだ。」


その名は短く、硬い。


「体術専門。理論は壊滅的。」


本人があっさり言う。


「去年は体術最高点だったが、金がないからここだ。」


笑いは乾いていない。


事実として受け止めている。


「灰棟はな。」


ガルドが親指で背後を示す。


「負け組寮じゃねえ。」


「学園が目を配りきれねえ場所だ。」


ルクスが静かに頷く。


「だから静かだ。」


階段の上から、別の足音。


本を抱えた青年が現れる。


眼鏡をかけ、細身で、顔色が悪い。


「騒がしい。」


低い声。


「研究の妨げだ。」


「ラディス。」


ガルドが言う。


「研究馬鹿。」


ラディスは無視する。


「四年、B組。」


「理論寄り。だが金がない。」


淡々としている。


アルノーを見る。


視線が鋭い。


「理論SS。」


言い当てられる。


「噂は速いな。」


ガルドが笑う。


ラディスは本を抱え直す。


「世界を見るものか。」


それだけ言い、部屋へ戻る。


そのとき。


廊下の奥から、同時に二つの足音。


まったく同じ歩幅。


まったく同じ間隔。


現れたのは、瓜二つの少年だった。


灰色の髪。

灰色の瞳。


「……双子だ。」


ガルドが言う。


「名前は?」


「どっちがどっちでもいい。」


片方が言う。


「区別はつかない。」


もう片方が言う。


声も似ている。


「三年、C組。」


「魔術量D。」


「体術D。」


「理論D。」


同時に言う。


「平均。」


そして同時に去る。


アルノーは呟く。


「……対称性がある。」


ルクスが横目で見る。


「揃いすぎだ。」


ガルドが笑う。


「気味悪いだろ?」


階段の下から声が響く。


「夕飯の時間よ!」


年配の女性の声。


寮母だ。


階段を降りる。


食堂は小さい。


長机が二つ。


白塔のような豪華さはない。


青棟のような整然さもない。


だが温かい。


「第三寮は少人数だからね。」


寮母が言う。


「その分、顔は覚えられる。」


皿が並ぶ。


簡素だが、量はある。


ガルドは大きく食べる。


ラディスは本を読みながら。


双子は同じ動作でスープを飲む。


ルクスは静かに座る。


アルノーはその空気を見る。


整っていない。


だが崩れていない。


学園の中心から外れた場所。


盲点。


だが、ここには均衡がある。


ガルドが言う。


「六年、ここにいるかどうかは自分次第だ。」


ラディスが付け加える。


「灰棟は追い出されない。」


「だが、登ることもできる。」


ルクスは何も言わない。


アルノーはふと思う。


この寮の空気は、どこか居心地がよい。


夜、部屋に戻る。


整っていない灰練だが、静かな分、慣れてくれば落ち着くこともできるかもしれない

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