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第52話:灰棟の静寂



灰棟の夜は早い。


白塔の光は遠く、

青棟の話し声も届かない。


廊下は短く、足音はよく響く。


アルノーが部屋の扉を開けたとき、

廊下の奥に人影があった。


大きい。


肩幅が広い。


縞模様。


虎の獣人だった。


金の瞳が、静かにこちらを見る。


威圧はない。


だが存在感は濃い。


「新入生か。」


低い声。


「はい。」


アルノーは頷く。


「C組のアルノー・ヴァレリウスです。」


虎は近づく。


足音が重いはずなのに、規則正しい。


一定。


乱れがない。


「灰棟は、騒がしくない。」


それだけ言う。


自己紹介も、歓迎もない。


アルノーは一歩近づく。


違和感がある。


初めて感じる獣人の魔力は荒い。


本能的で波打つが整っているように感じる。


「……荒々しいが整っている。」


思わず口に出る。


虎の耳が、わずかに動く。


「何がだ。」


「魔力が。」


沈黙。


一瞬、空気が張り詰める。


だが、次の瞬間。


虎は目を細める。


「変わった奴だな。」


「普通、初めて会うやつは怖がる。」


「怖くありません。」


アルノーは首を振る。


「むしろ、落ち着きます。」


虎は笑わない。


だが、否定もしない。


「……ルクスだ。」


短い名。


それ以上は語らない。


廊下の向こうから、別の足音。


「もう新入生が来たのか?」


階段を降りてくる声。


だがルクスは振り向かない。


「そうだ。」


低く言う。


灰棟は静かだ。


ルクスが最後に言う。


「六年は長い。」


「ここの寮にいる意味は自分で見つけろ。」


アルノーは小さく頷く。


灰棟は、学園の盲点。


だが盲点には、理由がある。


整っていない場所。


それでも崩れていない場所。


ルクスの背中を見ながら、

アルノーは小さく思う。


――荒々しいが整っている

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