第51話:第三寮
王立魔導学園の寮は三つある。
白塔寮。
青棟。
そして、第三寮――灰棟。
白塔は塔の名の通り白く、窓は大きく、庭も広く、豪華絢爛
青棟は実用的で、規律があり、中流的な建物
灰棟は石の色がそのまま残っている。
削られていない。
磨かれていない。
整えられていない。
「こちらになります。」
案内の職員が淡々と言った。
父は迷わなかった。
「ここでよい。」
職員が確認する。
「第三寮は財政的事情のある学生向けです。
各学年二名程度。上級生も少数です。」
父は頷く。
「問題ない。」
アルノーは建物を見る。
整っていない。
だが崩れてはいない。
父が続ける。
「学費と寮費は家が負担する。」
短く。
「だが余裕はない。」
視線がアルノーに向く。
「贅沢はさせられん。」
言葉は冷たいわけではない。
事実だ。
三流貴族。
三男。
家督とも縁は薄い。
「最低限は出す。」
「それ以上は、自分で賄え。」
アルノーは頷いた。
反発もない。
当然だと思っている。
白塔寮の方角を見る。
華やかな笑い声が遠くに聞こえる。
青棟からは数多くの生徒の声が聞こえる。
灰棟は静かだ。
「灰棟は、選ばれる者が少ない。」
父が言う。
「だが悪い場所ではない。」
一瞬だけ、父の声が柔らぐ。
「最下位であっても、合格は合格だ。」
アルノーは答えない。
ただ、建物を見つめる。
削られていない石。
歪みのある窓枠。
わずかに傾いた軒。
整っていない。
だが、崩れていない。
父は背を向ける。
「6年だ。」
それだけ言い、歩き出す。
じいやはいない。
ここからは一人だ。
扉を押す。
木が軋む。
中は静かだった。
廊下は短い。
階段は古い。
整えられていない空間。
落ち着かないが仕方がない。
アルノーは小さく呟く。
「……歪んでいる。」
だが、ここなら、理論を極められる。
6年。
長いと言われるが、短いと感じる。
だが、十分だ。
灰棟は、学園の端にあった。
だが端から歪みを感じ、均等を取り、証明していく。




