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第50話:個別面談



合格通知は掲示の2日前に届いていた。


簡潔な封書。


「王立魔導学園への入学を許可する。」


簡単な言葉と成績が書いてあった。


そして、もう一文。


――魔術理論特別評価者は、発表当日に個別面談を行う。


アルノーは面談室の前に立っていた。


扉を叩く。


「入りなさい。」


老魔導士と、他二名の教師。


長机の向こうに座っている。


空気は重くない。


だが軽くもない。


「まず言っておく。」


老魔導士が口を開く。


「この面談は、評価を覆すものではない。」


「入学の取り消しもない。」


「安心してよい。」


アルノーは頷く。


「ではなぜ、面談を。」


「君の理論試験、最後の設問だ。」


基礎陣式の修正。


水晶が淡く光り、映像が浮かぶ。


しゃがみ込み、線を引き直す少年。


「効率が15パーセント向上している。」


「我々は再現した。」


「確かに改善している。」


老魔導士が指を組む。


「だがな。」


「我々は、その“必要性”を感じていなかった。」


沈黙。


「なぜ、あの歪みに気づいた?」


アルノーは少し考える。


「気づいた、というより……」


言葉を探す。


「気持ち悪かったのです。」


教師の一人が眉を動かす。


「理論的根拠は?」


「……ありません。」


正直に言う。


「半径の僅かな差、刻印間の間隔、補助線の角度。」


「どれも誤差の範囲だと理解しています。」


「ですが。」


視線を映像に戻す。


「美しくありませんでした。」


静かな部屋に、その言葉だけが落ちる。


「美しくない?」


「はい。」


「非対称は、効率を落とします。」


教師の一人が問う。


「それはどの理論書にあった?」


「ありません。」


即答だった。


老魔導士がさらに問う。


「では、誰から学んだ?」


「家庭教師がいました。」


「名は?」


「ヴェルド。」


教師陣の間に視線が交わる。


首が横に振られる。


「聞いたことがない。」


「魔導師名簿にも該当なし。」


老魔導士が言う。


「基礎理論はどこまで理解している?」


アルノーは素直に答える。


「教科書の範囲は理解しています。」


「ですが最後の問題は、理論で解いたわけではありません。」


「では?」


「美しくない、という違和感で。」


沈黙。


理論ではない。


計算でもない。


感覚。


老魔導士が静かに言う。


「つまり、君は理論を超えたわけではない。」


「理論の“隙間”を見ただけか。」


「……かもしれません。」


アルノーは答える。


面談はそれ以上深掘りされなかった。


「6年間で理論を固めよ。」


老魔導士が言う。


「直感だけでは足りん。」


「だが。」


一瞬だけ目が柔らぐ。


「その違和感は、失うな。」


面談は終わった。


扉が閉まる。


アルノーは廊下を歩く。


整っていない。


その感覚は、間違いではなかった。


だが説明できない。


まだ。


面談後 ――


室内に静けさが戻る。


教師の一人が言う。


「理論的裏付けがない。」


「危ういな。」


別の教師が頷く。


「だが、再現性はある。」


老魔導士が机を軽く叩く。


「彼は理論を壊してはいない。」


「我々の見落としを拾っただけだ。」


「直感型か。」


「いや。」


老魔導士は首を振る。


「観測型だ。」


「整っていないものを嫌う。」


沈黙の後。


「育てる価値はある。」


「だが、放置すると危険でもある。」


「極端だ。」


書記官が記録する。


――アルノー・ヴァレリウス

――理論特別評価

――経過観察対象


老魔導士が窓の外を見る。


塔は静かに立っている。


整っている。


だが。


「整いすぎたものを疑えるかどうか。」


小さく呟く。


今年は、少し面白い。

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