第4話:わずかな違い
午後の庭は、やわらかな光に満ちていた。
手入れの行き届いた芝生の向こうで、庭師が低い枝を整えている。鋏の音は規則正しく、小気味よい間隔で続いていた。
アルノーは石畳の上をゆっくりと歩く。
この庭を歩く時間が、わりと好きだった。
並んだ木々。揃えられた花壇。等しい間隔で置かれた白い石。
視線を滑らせるだけで、呼吸が整う。
ふと、足が止まる。
一本の通路が、中央へ向かってまっすぐ伸びていた。
そのはずだった。
アルノーは少しだけ首を傾げる。
もう一歩だけ前に出て、確かめる。
右側の石が、ほんのわずかに外へずれていた。
言われなければ誰も気づかないほどの違い。
けれど、一度気づいてしまうと、そこだけが目に残る。
アルノーは石を見つめたまま立っていた。
しばらくしてから、近くにいた庭師に声をかける。
「これ、少しだけ動いてる。」
庭師は手を止め、石を見下ろした。
「そうでしょうか?」
「たぶん、これくらい。」
アルノーは両手の指をわずかに開いて見せる。
庭師はしゃがみ込み、石に触れた。
ぐ、と押す。
石は驚くほど素直に動き、隣の列とぴたりと揃った。
その瞬間、胸の奥にあった小さな引っかかりが、静かに消える。
「……ありがとうございます、若様。よくお気づきになりましたな。」
アルノーは石畳を見渡した。
今度はどこにも視線が留まらない。
ただ、まっすぐに続いている。
「うん。」
それだけ言って、もう一度歩き出す。
数歩進んだところで、後ろから庭師の声がした。
「若様は、細やかなところまでよくご覧になりますな。」
アルノーは振り向かなかった。
少しだけ考えてから答える。
「違うと、分かるから。」
自分でも、なぜ分かるのかは説明できない。
ただ、揃っていないと落ち着かない。
それだけだった。
風が庭を渡る。
葉がわずかに揺れる。
だが通路は、もう乱れていなかった。
アルノーは何も言わず、その上を歩いていった。




