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第27話:閉じない形



夕方の光が、書庫の床を長く照らしていた。


アルノーは新しい陣を描いている。


外周を、ほんのわずかだけ途切れさせた。


閉じない円。


意図してそうした。


流れる場所を作るために。


描き終える。


前より軽く見えた。


床に置く。


指先を向ける。


魔力を流す。


光が生まれる。


一秒。


二秒。


三秒。


突然、光が広がった。


輪郭が滲む。


次の瞬間——


霧のように散った。


アルノーは息を止める。


消えた。


崩れたのではない。


留まらなかった。


「……逃げた。」


小さく呟く。


閉じなければ流れる。


だが、流れすぎれば残らない。


視線を落とす。


閉じると滞る。


開くと消える。


その間が、見えない。


「極端だな。」


声がした。


ヴェルドだった。


いつからいたのか分からない。


「揃えれば止まり、逃がせば散る。」


陣を見下ろす。


「どちらも形だ。」


アルノーは眉を寄せる。


「じゃあ、どうすればいい?」


初めて問いが口をついた。


ヴェルドは少しだけ沈黙する。


そして言った。


「魔力を逃がす方法で均等を取る形を探せ。」


それだけだった。


答えは与えない。


アルノーは陣を見る。


閉じない形。


だが、まだ形になっていない。


「若様。」


じいやがランプに火を灯す。


柔らかな光が広がる。


影が生まれる。


完全に均一ではない明るさ。


それでも、暗くはならない。


アルノーはふと気づく。


光は閉じていない。


だが散ってもいない。


「……どうしてだろう。」


呟く。


誰も答えない。


静けさだけがある。


アルノーは椅子に腰を下ろす。


胸の奥が、少しだけざわついていた。


分からない。


昨日より、分からない。


だが、不思議と手は止まらない。


新しい紙を広げる。


閉じない形と、閉じた形。


その間を探すように、線を引き始める。


形はまだ遠い。


それでも——


遠いままで終わる気はしなかった。


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