第21話:視線の先
朝の訓練場には、澄んだ空気が満ちていた。
剣を振る音が、一定の間隔で響いている。
アルノーは書庫へ向かう途中で、長兄に呼び止められた。
「アルノー。」
振り向くと、長兄は剣を肩に担いだままこちらを見ている。
「書庫で何か描いていると聞いた。」
「うん。」
短い返事だった。
長兄はしばらく無言で見つめてから、言った。
「見せろ。」
書庫へ戻る。
床の陣はまだ消していなかった。
長兄はしゃがみ込み、線を目で追う。
長い沈黙。
アルノーは息を詰める。
やがて兄が口を開いた。
「均衡を取ろうとしているな。」
「うん。」
即答だった。
兄は頷く。
「悪くない。」
その言葉は重い。
だが、すぐに続く。
「だが、まだ甘い。」
アルノーは黙る。
否定ではない。
距離の提示だ。
「均等を取ろうとするのは簡単ではない。」
長兄は立ち上がる。
「揃えたつもりでも、わずかな歪みが全体を崩す。」
その言葉は、昨日見た崩壊と重なる。
長兄は陣をもう一度見る。
「繰り返し思考し、実験するしかない。」
「学園を目指すのであれば、学園の基準はもっと厳しい。」
それだけだった。
別の道を示すこともない。
ただ、
まだ遠い。
それだけを置く。
アルノーは頷く。
均等を取ることは難しい。
それは否定ではなかった。
むしろ、確信に近い。
「もっと整える。」
小さく言う。
兄はそれを聞き、短く答える。
「形は嘘をつかない。」
兄は去っていく。
アルノーは陣を見つめる。
均等には、まだ遠い。
だが遠いからこそ、目指す価値がある。
今はまだ、それ以外を考えていない。




