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第20話:静かな均衡

第20話:均衡の近く


紙の上には、いくつもの円が重なっていた。


描いてはやめ、描き直し、また消す。


机の周りには、使われなかった紙が静かに積み上がっている。


アルノーは一本の線を見つめていた。


多すぎれば、重い。

少なすぎれば、保てない。


その間にあるはずの形。


「……ここ。」


小さく呟き、外周の円をわずかに整える。


完全な円に近づける。


だが、最後のところで手が止まる。


ほんのわずかだけ、線が重なりすぎる気がした。


迷った末に、ほんの少しだけ位置をずらす。


崩すつもりはない。


むしろ——


対称に近づけるための調整だった。


描き終えたとき、形は静かに見えた。


床に置く。


指先を中心へ向ける。


意識を集める。


光が生まれる。


アルノーは息を止めた。


揺れない。


輪郭が保たれている。


一秒。


二秒。


三秒。


そのとき、外周がかすかに震えた。


均衡が揺らぐ。


光は細く伸び、やがて静かに消えた。


沈黙。


アルノーは動かなかった。


今の感覚を、逃さないように。


「……近い。」


声は小さい。


だが確信があった。


完全ではなかった。


けれど、昨日までよりも対称に近い。


それが、分かる。


背後で紙が揺れる音がした。


じいやだった。


「若様。」


アルノーは振り向かない。


まだ形の余韻を見ていた。


「いまのは、長く保たれましたな。」


「うん。」


短く答える。


じいやは陣を見下ろし、静かに言う。


「わずかな調整で、均衡は変わるものです。」


アルノーは頷く。


「揃えようとすると、重くなる。」


それから続ける。


「でも、揃えないと落ち着かない。」


本心だった。


じいやは微かに目を細める。


「形とは、常にその間にあるのかもしれません。」


アルノーは陣を見る。


目指しているのは、あくまで対称だ。


ただ——


そこへ至る道は、思っていたよりも単純ではない。


新しい紙を手に取る。


もう一度、対称に近づけてみようと思った。


完全な形は、きっとどこかにある。


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