第16話:揺れの中の形
午後の庭は、風が出ていた。
強くはない。けれど止まることなく、枝から枝へと流れていく。
アルノーは書庫を出たあと、足の向くままに庭へ出ていた。
木々の葉が揺れている。
同じ動きは一つもない。
右へ傾いたかと思えば、次の瞬間には戻り、また別の葉が遅れて揺れる。
ばらばらだった。
本来なら、落ち着かないはずの光景だった。
揃っていないものは、どこか不安定に見える。
そう思っていた。
けれど——
しばらく見ていると、不思議と目が離れない。
「若様?」
振り向くと、じいやが少し後ろに立っていた。
「風が気になりますか。」
アルノーは小さく頷く。
「揃ってないのに……変じゃない。」
思ったままを口にする。
じいやは木々を見上げた。
「自然とは、そのようなものかもしれませんな。」
アルノーは枝の動きを目で追う。
揃っていない。
それは確かなのに、なぜか崩れて見えない。
理由が分からない。
それが、少しだけ落ち着かなかった。
「……どうしてだろう。」
じいやはすぐには答えない。
風が二人の間を通り過ぎる。
「すべてが同じであることだけが、整いとは限りません。」
アルノーはその言葉を聞き、少しだけ眉を寄せた。
整い。
だが目の前の光景は、やはり揃ってはいない。
「でも……」
言いかけて、やめる。
うまく言葉にならない。
ただ一つ、はっきりしていることがある。
自分なら、もっと揃えたくなる。
そのほうが、きっと静かだ。
それでも、この揺れはどこか収まって見える。
「……まだ、分からない。」
正直にそう言った。
じいやは微かに頷く。
「分からぬまま見続けることも、大切でございます。」
アルノーはもう一度、枝を見る。
揃っていないものが、なぜ崩れないのか。
答えはまだ遠い。
けれど、その問いだけが静かに残った。




