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第115話:不揃いな試行錯誤


工房での共同研究にひとつの道筋をつけ、アルノーは再び王立魔導学園の門をくぐった。しかし、戻った彼を待っていたのは、学術発表での栄光に浸る暇もない、深刻な「停滞」の光景だった。


旧演習場の片隅。

リュミエール・セレスティナが放った術式が、またしても空中で歪み、霧散した。


「……だめ。やっぱり、最後の一節でどうしても『形』が保てなくなるわ」


膝を突くリュミエールの横で、アルノーもまた、地面に広げた分厚い計算紙を前に唸っていた。

「難しいですね……。僕の『ならし』をそのまま当てはめようとすると、あなたの圧倒的な出力に耐えきれず、器そのものが自壊してしまう」

アルノーは、地面に膝をつき、リュミエールと同じ泥にまみれながら数式と格闘していた。

「あなたの魔力は、言わば濁流です。僕の細い線でそれを強引に制御しようとするのは、僕の計算が傲慢だったのかもしれません。僕も、あなたの『勢い』を殺さずに済む方法が見つからなくて、少し詰まっています」

「……あなたでも、そんなふうに悩むことがあるの?」

リュミエールが驚いたように顔を上げると、背後から騒がしい足音が近づいてきた。

「なんだ、天才二人して揃って行き詰まってんのか?」

現れたのは、ガルド、ルクス、そしてルディスだ。

ガルドがリュミエールの術式の残滓を木剣で突き、鼻で笑った。

「お嬢様、あんたの術式は綺麗すぎて『遊び』がねえんだよ。俺ら体術使いから言わせれば、転びそうになった時に踏ん張る『足首の緩み』がねえから、そのままポッキリ折れちまうんだ」

「緩み……? そんなものを入れたら、精度が落ちるわ」

反論するリュミエールに、ルディスが横から口を出す。

「精度と強度は別物だぜ。アルノー、お前がさっき計算してたここ。完璧な円にこだわらず、いっそ一部を『放熱用』に捨てちまったらどうだ? 灰棟の安物魔石パーツを無理やり繋ぐ時のやり方だ」

「捨て……放熱……」

アルノーの目が光った。

「そうか。リュミエール、僕たちは『全てを均そう』としすぎていたのかもしれません。一部をわざと崩して、そこから過剰なエネルギーを逃がす……。ルディス、その回路のバイパス、一緒に組んでみてくれますか?」

そこからは、身分も学年差も関係ない、泥臭い試行錯誤が始まった。

「ガルド、その『踏ん張るタイミング』を魔力の拍動に置き換えるとどうなる?」

「ルクス、君の野生的な勘で、この術式が『苦しがっている』場所を教えてくれ」

リュミエールは呆然としていた。

かつて蔑んでいた灰棟の連中が、自分を「天才」として崇めるのではなく、一つの「壊れかけた機械」を直すように、ああだこうだと議論を戦わせている。

そして、その中心でアルノーもまた、「今の案はダメですね」「あ、それはいいかもしれません」と、失敗を楽しみながら頭を抱えている。

「……ふふっ」

不意に、リュミエールから笑みが漏れた。

「何がおかしいんですか、リュミエール」

アルノーが顔を上げると、彼女は立ち上がり、ドレスの汚れを払った。

「いいわ。私の『完璧』を、あなたたちの『デタラメ』で一度壊してみなさい。……一緒に悩んであげるわ、アルノー」

灰棟の不揃いな知恵が、王立の完璧な美学を少しずつ塗り替えていく。

それは、教科書には決して載らない、けれど誰よりも「正しい」魔道の模索だった。

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