表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
111/117

第110話:観測者の確信


演習場を支配したのは、爆鳴ばくめいよりも重い沈黙だった。

崩壊した三体のゴーレムの残骸が、石床に転がっている。それらは破壊されたというより、自らの存在を維持するための「ことわり」を抜き取られ、静かに瓦解したかのようだった。


観客席の最前列で、レオナルト王子がゆっくりと立ち上がり、惜しみない拍手を送った。それを合図に、西門ギルドの面々から地鳴りのような歓声が沸き起こる。


だが、アルノーはそれらの賞賛に目を向けることはなかった。

彼はただ一人、来賓席の隅で不動の姿勢を保つ兄、イグノスを見つめていた。


イグノスは、手元の記録水晶を静かに閉じた。

もはや、弟を「管理」し、「監視」し続けるための大義名分はどこにも残っていない。アルノーが示したのは、王国の既存理論を否定することではなく、その上位互換としての「真実」だったからだ。


イグノスは重い足取りで演習場の舞台へと降り、アルノーの前で立ち止まった。

背後に控えていた監視員たちは、もはやどちらに従うべきか迷うように、一歩下がって頭を垂れる。


「……アルノー」


イグノスの声は、かつてないほどに低く、そして澄んでいた。


「お前は、私が課した『秘匿』の試練を、最悪の形で、かつ完璧に超えてみせた。……監視の網を潜り抜けるのではなく、網そのものをならして消したのだな」


「兄様の導きがあったからです。……管理という名の不自由がなければ、私はこの『死角の線』を見つけることはできなかったでしょう」


兄弟の視線が交差する。そこには、かつての「執行者と被疑者」の関係はなかった。

イグノスは、懐から一通の公的な書状を取り出し、それをアルノーではなく、随行していた筆頭官へと突きつけた。


「監視院、および王立学園の観測班に命じる。……アルノー・ヴァレリウスに対するすべての監視任務を、本日、この瞬間を以て解除する。彼の理論はもはや『研究対象』ではなく、我々が学ぶべき『基盤』として扱うべきだ」


筆頭官が息を呑み、そして深く頭を下げた。

監視員の水晶が、その赤い点滅を止める。

アルノーを縛り続けていた、目に見えない檻が霧散した瞬間だった。


「……行け、アルノー。お前の『満月』は、もはや私一人の眼で測れるものではなくなった」


イグノスは背を向けた。その背中は、かつてよりも僅かに小さく、しかし一人の学徒としての誇りに満ちていた。


アルノーは灰棟の仲間たちを振り返った。

ガルドが、ルクスが、ルディスが、そして双子が、自分たちの「居場所」が世界に認められたことを確信し、静かに頷き返していた。


監視は終わった。

だが、アルノー・ヴァレリウスという特異な位相が、この王国の歪な円環を完全に描き変えるための物語は、ここから加速していく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ