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<EP_006> スクリプト

それはコマンドスクリプトだった。

今のゼロにはそれが何を意味するのか、完全に理解することができた。

ゼロが何かを考えると、それに対応して世界を書き換え、ゼロに世界を対応させる。

それがスクリプトの全てだった。

世界をゼロに都合の良いように調える。

それが「調律」スキルの効果だった。


呆然としながらスキル発動のログを遡っていく。

スキルは様々な場面で発動しており、マリアやターニャの反応までが次々と書き換えられていた。

(ボクがこの世界を狂わせている?)

そんな思いが浮かんでくる。


【Tuning Skill Activate.】 Asset_Target: Maria(ID004). PROTOCOL: Relationship_Recalculation -> LOVE_ZERO.

Required_Asset_Removal: Barkus(ID003), Tonma(ID008).

CONSTRAINT_ID:003 (Barkus) & CONSTRAINT_ID:008 (Tonma) -> STATUS: ELIMINATE.CAUSALITY_REWRITE: Forced_Attack_Event (Black_Dragon).

Status: Complete!


(な、なんだこれ……)

前後の発動履歴から当時を思い出してみる。


(マリアってやっぱり美人だなぁ。前から美人だとは思ってたけど、今はすっかり母親って感じで、さらに母性や慈愛がにじみ出てる。アリスの気品やターニャの無邪気さも魅力だけど、マリアの母性も魅力的だなぁ……)


思い出すとゼロは身体の震えが止まらなかった。

(ボクがマリアを狂わせた?そして、ボクがバーカスとトンマを殺した?)

そう結論づけるしかできなかった。

「うわぁぁぁぁ」

ゼロは叫び、頭を掻きむしり、頭を抱えてテーブルに突っ伏した。


自分の両手を見る。

(あの日、街が唐突に竜に襲われることも、竜を殺すことも、そして竜がマリアの家に落下してバーカスとトンマを押しつぶしたことも、全て、全て、ボクが仕組んだことだったんだ)

バーカスが死んだ日のことを思い出し、ゼロは再び頭を抱えてテーブルへ突っ伏す。

(ボクが殺したんだ。ボクは殺してしまったんだ。親友を……その子供を……ボクのこのスキルが……そして、優しかったマリアを変貌させた……)

親友を殺したこと、その理由が親友の妻に欲情した自分であるということに、涙と自己嫌悪が止まらなかった。

泣きながらマリアを思い出す。

そこにいるマリアは自分の上で淫らに動くマリアではなく、慈愛に満ちた笑みでトンマをあやすマリアだ。


(ボクは、マリアの心も殺したんだ……)

全てを欲望のままに動かし、世界を狂わせた元凶が自分であるという事実にゼロは呆然とする。

(ま、まさか……)

ゼロはそのままログを追い続けた。


【Tuning Skill Activate.】 Target: Tarnya(ID005) -> Relationship: Love. Status: Complete!


(ターニャまで……)

罪悪感が胸を支配し、ここまでの記憶が蘇り、ゼロの胸を締め付けた。


「ゼロ……ホントに大丈夫にゃ?」

ターニャが裸のまま、リビングの入口で心配そうな顔でこちらを見ていた。

ターニャの肢体に、ゼロは自分の欲望が動くのを感じた。

スキルの発動ログが更新されていくのが横目に見える。

「ゼロ、大丈夫にゃ。アタシがついてるにゃ」

ターニャが抱きつき、体温が伝わってくる。

(ああ、このままターニャを思い切り犯したい。無茶苦茶にしてやりたい。そうすれば、この罪悪感は少し晴れるだろうか)

そんな思いが浮かんでくる。しかし、それはターニャの意思を無視して調律された世界である。


「ゼロ。少し疲れてるみたいにゃ。アタシを好きにすれば良いにゃ。そうすれば少しは楽しくなるにゃ」

ターニャは強く抱きつき、その手はゼロの股間へと伸びていく。

このターニャの行動も「ゼロを気持ちよくさせるため」というスクリプトで書き換えられた結果なだけだ。

苛立ちすら湧き上がってくる。

「うるさいっ!」

「ゼロ……」

乱暴に突き飛ばされ、悲しそうな顔で見てくるターニャに罪悪感が湧いてしまう。

(ターニャも被害者なんだ……ボクの被害者なんだ……)

ターニャに八つ当たりした自分に失望しか生まれなかった。

「ごめん。一人にしてくれないか」

ゼロはそう言うと、服を整え、外に出た。


外は晴れており、空には星が瞬いている。

ログハウスの隣ではサーヴァントたちが忙しく働き、豪邸が建てられようとしている。

ゼロは自分の手を見る。

(ボクのこの手は、ボクの欲望を吐き出し、世界を狂わせていく。この手は、ボク自身じゃない。この力でもう、誰かを狂わせたくない。でも、どうすることもできないのか?)

ゼロは上を見上げる。

(この星空もボクが狂わせているのだろうか?)

目を閉じ、記憶を遡っていった。


「おい、ジェイムズ。これ見ろよ、あのクェーサー、水素スペクトルが250%も赤方偏移してやがるぜ」

「凄いですね。こんな場所でこの数値は信じられないですよ。コンピューター解析じゃ80%程度だったはずなのに」

ラフォーンが見せてきた結果にジェイムズは驚いてしまう。

船に付けられた望遠鏡を覗き込むと目のまえには光り輝く星が瞬いていた。


「なぁ、ジェイムズ。既存の物理法則や、どんなコンソール・スクリプトでも解析できない、規格外の謎だ。この宇宙には、俺たちの常識を超えた、もっと不思議で、予測不能なものが詰まっている。それを見つけ、解明するのが、俺たちの使命なんだ」

「ええ。俺たちは、宇宙の謎を探る人類の最先端にいるんですよ」

ジェイムズにラフォーンは子供のようにはしゃいで声をかけてくる。望遠鏡から目を離し、ジェイムズもまた、子供のように目を輝かせて答えた。

そんな中、船内に通信が入る。

「リカルドより機関部員に連絡。今から10分後に今後の探査についてのブリーフィングを行う。全員、ブリーフィングルームに集まってくれ」

リカルドの言葉にラフォーンは肩をすくめた。

「やれやれ、せっかく夢に浸れてたのによ。仕事のせいで現実に引き戻されちまったぜ」

「まぁ、仕方ないですよ」

二人は天体観測室を後にした。


「リカルド艦長……ラフォーン中尉……デスタ少佐……ヴォーグ中佐……」

ゼロが思い出せるのは、ブラック企業にいた頃ではなく、フラッシュバックの中で見た、人々。

ゼロはこの日の何度目かの問いを自分に投げかける。

「俺は誰だ?……俺はゼロ・アブソリュート……元サラリーマンの転生した伝説の勇者……違う!」

ゼロの中で何かが弾けた。

霞がかったような曖昧な記憶ではない、ハッキリとした記憶。


「俺は…俺はジェイムズ・ハーマン。地球連邦第451師団に所属する、スター・エンデバーの機関部員。ジェイムズ・ハーマン少尉だ!」

ゼロの中でハッキリと前世のジェイムズ・ハーマンが目覚めた瞬間だった。


「ジェイムズ。この世はスクリプトなんかじゃ動いてないぜ」


ラフォーン中尉の言葉が鮮やかに蘇ってきた。

(そうだ。この世界はスクリプトなんかじゃ動かせない。じゃあ、この世界は何だ?)

ジェイムズには、今見えている世界が酷く薄っぺらいものに見えた。

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