陽夜
「大丈夫。絶対にまた会おうね」
記憶が、また始まった。
思い出すのは何回目だろう。
時空の海にまた沈んでいく。
あの日の月は、まるで太陽のようだった。
月に照らされ、海岸の砂浜は煌々と輝いていた。
流木に二人で腰掛け、月を見た。
潮騒が流木にあたって音を立てる。
夜の雲は遠く、遠くにあって、手を伸ばしても、届きそうになかった。
いつも一人でいた。
そこにあなたが現れた。
一瞬だけだった。二人だったのは。
1足す1引く1は、どう足掻いても1だった。
秒針を急に見つめると、秒針が止まって見える現象―――クロノスタシス―――のように。
あなたといた時間は私の今までの時間の100倍の価値があった。
あの海岸に行くと、ずっとその事を思い出す。
記憶は、忘れるものだ。
人間とは、忘れるものだ。
いっそのこと忘れてしまえば楽なのかもな。
夢の中の海岸。
魔法がかかったように光り輝く太陽のような月。
思い出して、繰り返す。
距離は遠くなっていく。
まるで地球と月のように。
僅かに、忘れていく。
もしかしたら、あなたは私のことをすでに忘れているのかもしれない。
こうして思い出している度に、あなたは私の記憶に残り続けるのだろう。
忘れないように。
思い出せるように。