憂鬱な枝
由里は学校の帰り、歩道を歩きながら、横の川面を眺めていた。
全ては終わった。
流れる川のように。
彼女は涙をこらえて、ため息を吐いた。
そして、ゆっくりとした歩を早めた。
事件は数日前から起こった。
彼女の親友といっていい、理彩が階段から突き落とされたのだ。
怪我は打撲だけだが、全治二週間といった処だ。
それはこれで、三度目だった。
一度目は、鞄の中に大量のカミソリの刃が入れられていた。
二度目は、美沙という子が複数の子のため買ってきた購買のパンに針が入っていた。
三度目が階段でだった。
もちろん、最初に疑われたのは、美沙だった。
しかし、これは理彩自身が否定した。
バラバラで適当に買ってきたあらゆる種類のパンの中から、その場で選んだものである。どうやって、針を仕込むのか。
単なる思い違いだと、理彩は言う。
一度目のカミソリの刃も、明らかに別人の仕業だというのに、自分の行為だと言い張った。
由里は納得出来ずに、犯人を捜そうと決意を表明していた。
直後に階段からの転落事故が起こったのだ。
「いやぁ、自分でこけちゃっただけだから」
理彩は笑って次の日、彼女の部屋で由里を迎えた時に言った。
その膝と左手には、包帯が巻かれ、一歩間違えればとんでもない事態になったことは間違いがなかった。
見舞いが終わり、家の前では由里の彼氏の優也が待っていた。
「で、犯人は誰か目星は付いたのか?」
「ええ」
優也は心底心配そうだった。
なにしろ、彼は理彩の元彼氏だったのだ。
「解ってるなら、言えよ。俺がどうにかしてやる」
怒りに満ちた声で言う。
「知りたい?」
「もちろんだとも」
「どうして?」
由里の淡々とした追求に優也は、動揺した。
彼女は、笑った。
思い切り、悪い顔をして。
「犯人は私よ。貴方から理彩を離したかったの。いつまでも未練のある貴方をね」
優也は絶句した。
「だからね、バイバイ、優也」
由里は言って身を翻すと、呆然とする彼を取り残して歩きだした。
あわてて優也は家に駆け入った。
由里はその気配を背中に感じながら、太い峯の樹の側を通ると、枯れた枝が一本、落ちてきた。
了