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絶望の世界に、光を   作者: しらつゆ
第四章 隣国・ミリステッド国 保護編
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第四十話 信頼

祝・四十話達成!!



 魔術練習を終えて、夕飯を食べて。今は再び自由時間を過ごしている。まったりした施設生活。正直何かしなくてはならないことが沢山ある訳でもなく、何かに終われるでも無く、本当にまったりと過ごしている。


 そして明後日ようやく私達はこの施設の外に出れるんだ。ミリステッド国の街並みはどんな感じなのだろうと今からワクワクする。


 

 さてと、アネモスの所でも行くか……お部屋は確か三階だったはず。私は椅子から立ち上がって大きく伸びをし、アネモスのいる部屋へと向かった。



「アネモスー、入ってもいい?」


 少し静かめに声をかけ、軽くドアをノックする。私達は自由時間だけど、アネモスはどうだろうか。


「あ、リトル。いいよ、入って」


 中からアネモスの、鈴の音のような明るい声がした。良かった。どうやらいるようだ。そっとドアを開けて中へと入る。

 空気の流れと共に、甘い香りが漂ってきた。お花を嗅いだ時にするような、どこか落ち着く香りが。

 


「それで、話したいことってなんだっけ?」


 私はアネモスの右隣り……ベッドに腰掛けて座り、話を始めた。


「実は会って初めて話した事は、いっぱい隠しているところがあってね……本当のことは話しきれていないんだ。私達には、君には見えないかもしれないけれど、いっぱい秘密を抱えているんだ」


 最初に会って、何があったのか聞かれた時に話したこと。あの内容も真髄に触れるギリギリのラインまで話してはいた。だが、会って初めていきなりあの話をされたら何がなんだか分からないという顔をするのもよく分かる。


「まあ、なんとなくそんな気はしてたよ」


「例えば?」


「そうだね、一番疑問なのは……彼、ソルフィアのことかな?」


 そうか……私達のことはある程度伝えていたけれど、ソルフィアのことはあまりどころか全く伝えていなかった。


「なんというか、一番異質な気がするのよね……血みたいな色した瞳に、漆黒の二本角。一言で言うと悪魔みたいな気がしたわ」


 悪魔……

 その例えを聞いて私は苦笑いをした。


「彼は……正直に言うと研究員なんだ。私達の、宿敵」


「え……?宿敵って」


「そのままの意味だよ」


 アネモスは信じられないという顔を私に向ける。今までこの話をして、何度同じ顔をされたものか分からないが、誰もがそういう顔をするのはよく分かる。


「彼は、その研究所の長に肉体的、精神的な支配を受けている。抗えば殺されてしまう。彼はそれでもそこから逃走して私達の側にいるのだけれど、支配による効果が消えているわけではないから、四六時中、内側から体を攻撃されているらしい」


「そういう、ことだったの?」


「うん……ごめんね、一番伝えないといけなかったよね」


 アネモスが息を呑んだのを見て、まずいと私は思った。突然倒れ込んだりしたら驚くのは当然だ。私は頭を下げた。


「見た目は怖いけど、悪魔とか吸血鬼とかではないから安心して」


「でも、どうしてそんな、宿敵と行動しているの?」


 ごもっともな質問だ。私は正直に答える。


「彼は、他の研究員とは違う。本人の意思で長の命令に抗うほどの精神力を持っている。今までも一緒に行動して、私達に害を加えるようなことはしてこなかった。私達は彼にかけられた支配を緩和できる力があるから、私達を生涯襲わないという約束の元で、支配の影響を緩和してあげている」


「なるほど。とりあえず状況は分かったわ」


 うんうん、とアネモスは頷く。正直しっかり理解してもらうためには実際に見てもらうのが一番なのだが、そういうわけにもいかないので、言葉だけで理解してくれるのならありがたい。


「後は、リトルちゃん。あなた自身の事。聞いていいかは分からないけど……その……能力について、少し教えてくれるかな?」


 能力……

 ルティアとスケールには許可を得ている。今後過ごしていく上で大事になってくる部分だ。少し知っておいて欲しいという部分も無くはない。それに彼女のことはあってすぐに話すことになったリアよりも信頼しているつもりだ。


「私達の能力……それは、簡単に言うと治癒の力でね。重い病でも、治療不可能な傷でも、死んでさえいなければなんでも回復できる能力なんだ。一個、自分の意思で付けた傷は治せないという条件があるけれど……」


 これを話すたびに、何度喉が詰まって、胸が締め付けられているか分からない。同じことを話しているだけなのに、やはり突っかかるものは永久に消えない。


「……素晴らしい、能力じゃない……?」


 アネモスの期待を込めた質問に私は小さく横に首を振る。


「ううん……本当は私も普通に困っている人達を助けてあげたいんだ。でも、私達の能力を知った国民達は、私達のことを化け物扱いして……研究所と呼ばれる機関で収容・監禁されることになった」


「っ……」


「やがて、私達の能力しか治せないというウイルス……SNVが流行してからというもの、国民の暴走はより苛烈化した。私達は無差別に捕らえられ、拷問され……逃げ出しても逃げ出しても、追ってきて……ついには逃げ場を失った」


 苦しさが湧き上がるのを堪えて、なるべく普通の声で静かに私は語る。


 部屋のカーテンの隙間から、淡い黄色を含んだ光が、薄暗い部屋の中に薄ら差し込んでくる。ふと視線を外して窓の方を見る。数センチの隙間が空いた窓から、肌を優しく撫でる、冷たい風が吹き込んできた。


「それで……」


 私は服のポケットから小さな黄緑色の結晶を取り出す。私の体の中で作られたそれは、抽出した後でも、体温と同じかやや暖かい熱を持っている。


「これが、私達の体の中で作られる治癒力の結晶。私自身の力で光に変えた上で扱うことも出来るし、体内から取り出して使うこともできる。安全性は五、六年に及ぶ研究で保証されているから食べても大丈夫だし、直接体に打ち込んでも害はない」


「………食べても大丈夫って……美味しいの……?」


 アネモスはそれを興味深そうにまじまじと見つめる。単純な質問に、私は無意識のうちに笑った。


「まあ、美味しくはない……どころかめっちゃ不味いと思う。だから大体さっき言った二パターンで使ってる。状況的に直接光に変えて使えない時は、体に直接打ち込む方法を行うのだけど……ソルフィアはそれをすごく嫌がるから、今だけはそれをしないようにしているよ」


 すると突然、アネモスは言いにくそうに口にした。

 

「リトル……実は、私さっき料理してて手切っちゃったんだ」


 袖で隠していた部分をゆっくり捲る。小さな傷が見えた。それを見て、私はあることを思いついた。


「…………折角だからちょっとこれ食べてみる?」

 

「え……?あ、いや、そ、それは……ちょっと……」


 話す順番が逆だったか……。


「でも、少し興味ある」


 お、本当に興味あるのか。普通は断固拒否というところだと思うが……


「まあ、このぐらいの切り傷ならば一口かじれば十分だね」


 私はその結晶を手渡す。するとアネモスは躊躇せずそれを一口かじった。


 …………しばらくして、アネモスは硬直した。驚いたように目を見開いたまま動かない。


「だから言ったでしょ?不味いからって。だからよほどの何かじゃなければ、口に入れないようにしているのよ」


 それから何度かゆっくり咀嚼してそれをようやく飲み込んだ。


「はぁ……ちょっ、まっず……」


 明らかに不味いというのが顔全体に現れている。なんというか、途轍もなく顔が青ざめているのだ。それでも軽く笑みを溢しながら言うので、私も小さく笑みを作った。


「でもほら、見てごらん。傷、綺麗に塞がったでしょ?」


 そうそう。これを食べさせたのはただ興味があったからではない。料理中に付けてしまった切り傷を治すためだった。

 

「あ、本当だ……すごい。本物なんだね。不味いけど、すごい」


 アネモスはどこに傷があったのか分からないほどに綺麗に治った手を見て、感心したように言った。

 

「まあ、という感じで……私はこういう能力を持っているんだ。ルティアもスケールも少しずつ使える治癒力の総量は違うけれど私達三人だけは共通した能力持ちだ」


「…………なるほど」


「でも、これだけは言わせて欲しい。絶対に、他人に言ってはいけない。さっき言ったように、私達はこの世界では……特に祖国では人間として認められていない。能力持ちであることが一ミリでもバレたら研究所に連れて行かれて最悪の場合殺される。だから……お願い。秘密にして欲しいんだ」


 私は黄緑色の光を発する結晶を強く握り締め、そう言って締めくくる。

 

 目を強く閉じると、記憶の破片が再び見え隠れした。今まで浴びせられた声も言葉もありありと浮かびようになってきているのが辛いが、言わない訳にはいかない時だって当然ある。今日は彼女を信じて言ったけれど、良かったのかはその時まで分からないのが現状だ。



「分かったリトル、安心して。秘密は守るわ」



 アネモスの声には強い決意が見えた。あの時のリアと同じかそれ以上に強い決意が。


 

「こんなおかしな私達だけれど、これからもよろしくね、アネモス」





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― 新着の感想 ―
信頼できる仲間が一人増えて良き良き。 しかし治癒の結晶って不味いんですね。 良薬口に苦しと言うべきか、やれやれw
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