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絶望の世界に、光を   作者: しらつゆ
第四章 隣国・ミリステッド国 保護編
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第三十四話 少し、レベルを上げようか




「さぁ、リトル。今度はあなたの番よ」

 アネモスはまだまだ瞳を輝かせながら私にその太い杖を突きつける。

 あれだけ激しい模擬戦(模擬戦というよりは激しすぎた)をしたのにも関わらず。


 その杖を見て……私は戦えないと思った。

 なんて言ったってこの魔力とオーラ……刺すように伝わる、彼女の真の強さ。


 戦ったら、負ける。大怪我をすることも考えられる。

 私の治癒力ですら部位欠損は治せない。この結界もそこまで強力ではないはずだ。


 結界。それがあるから多少なら大丈夫なのは分かっている。でも、痛いのは嫌だなあ……。


 あっ!!


 その時私は大事なことを思い出した。

 そうだ。武器がないじゃないか。武器がないと戦えっこない。こんな、『大魔術師』とかいう異名を持つ奴なんかと……。


「だって、武器ないもん……」

「武器無くても戦えるよ、ほら」

「きゃあ……!!」


 アネモスは武器――杖を手から離して床に起き、その状態で魔力を込め、風を巻き起こした。髪どころか服までも暴れ出すぐらいの強風が間近で放たれた。

 それから立てた人差し指を私に立てた。

 

「だいたい、武器ないと戦えないって言っている以上、君、絶対に勝てないよ。どうするのさ、実際に戦って武器が無くなったら……。やめてくださいって懇願するつもり?敵に向かって」

「うっ…………」


 刺さる……すごーく刺さる。

 胸がぎゅうっと絞られる。


 そうだよ。武器がないと無理です、とか言っているそんな弱々しい相手なんか、吐きだす呼吸一つで吹き飛ぶ埃とおんなじだ。


「倒すんじゃないのか?いつかは、戦うんでしょう?大切な祖国を守るために、ね、リトル」


 私の耳元で生暖かい息が吐かれる感触がした。アネモスが私に訴えるように耳元で……小声で言う。

 アネモスは、知っている。

 流石に誰と戦っているとか、そういう細かいところまでは話していないけれど……

 未来の戦闘を推測させるようなことは言っている。


「うん、分かった。じゃあ、やろう」

「よし、あ、そういえばリトルの得意とする属性ってなんなの?」

 あーそっか。言ってない。

 言うのも正直言って恥ずかしい。


 何故かって?

 

 目の前にルミナという、同じ光属性を操れる魔術師が居るからだ。

 それにルミナは……あの動きからして私が到底追いつけないぐらいに強いし、私の知らない技も連発していた。

 でも言わないと。属性なんて隠したってしょうがない。どうせ始まれば一分もすればバレる。

 

「えーっと、得意とするのは光系の属性攻撃魔法。あとはそれの派生系と言われている雷属性攻撃魔法……一応使えるのはその二つの属性だけ」


 と……。アネモスの視線はルミナに向けられた。案の定だ。


「だってさ、ルミナ。また新しいライバルが増えちゃったね」

「えぇ!あ、いや……ライバルなんて、そんな」

 身に余りすぎる。言っておくけど、私、弱いよ…?

「ライバルは、ライバル!ルミナ。リトルと魔術に関してもお友達になれそうで良かったわね!」

「………………」


 ルミナは何度か瞬きをして、私を見、コクコクと頷いた。


 


「さぁ、始めましょ!」


 アネモスは杖を私に向けたまま、魔力を流し始める。

 その流れていく魔力……目に映らないはずなのに、なんだろう……黄緑色がかった煙のようなものが淡く見える。

 寒気がした。一旦間合いを開ける。


「『ウィンドメルシー』!」

 うわあ……!!!


 やばい、これはやばい……

 さっきは離れて見ていたから怖くなかった。正直風に髪が激しくはためくというぐらいで怪我をするほどではなかったが――これは、怖い……


 ウインドメルシー……

 強くも暖かな風。

 周りの空気がどんどん暖かくなっていく。


「身に宿る光の結晶よ!凶器の如く、切り付けたまえ!『シャイニーカッター』!」


 風を切るという目的で技を出す。

 

 私の欠点……

 それは詠唱をしなくてはいけないということ……。

 それだけで攻撃速度が落ちる。アネモスは詠唱がいらないらしく、連続で攻撃ができる。


「お、ちゃんと考えてるね!じゃあ、私は……『ウィンドウェーブ』!」

 杖の先から放たれた風の塊が波のように私を襲う。アネモスは再び魔力を纏わせて、飛んだ。

「あまねく光の結晶をここに宿し、光の玉を顕現せよ!『シャイニーボール!』」

 なるべく素早く詠唱をする。

 飛ぶアネモスに目掛けて腕を伸ばす。

 いやいや、頭上を飛ぶなんて、卑怯だよ……。

「えへへ!余裕余裕!それっ!!」

 えっ……?

 攻撃名を言わずに……

「うわぁ……!!!」

 斜め上。空中から放たれたそれが私の顔目掛けて飛んでくる。

 髪の毛が邪魔すぎる。左手で顔にかかった髪の毛を掻き分け、もう一度アネモスを見る……って

「いないっ!!」

 そこに彼女の姿は無かった。

 そこにあるのはちょっと遅れて吹き抜ける風だけ。

「………………」

 いや、焦るな。アネモスは絶対どこかにいる。

「身に宿る光の結晶よ……あっ!!!!」

「『風凛花』!」

 どこからか、よく響く声がした。

『リトル!あそこだ!』

 と、心の声でスケールが叫ぶ。

 あそこと言われても……どこだよっ!

 

 後ろに控える仲間を探す。

 どこか指さしているようだが……遠すぎてよく見えない。

 ああ……そうか。もしかして……

 スケールには見えているのかもしれない。見えないアネモスの姿が。その、()()()()で。

 

 風の壁が花ように広がる。ホールいっぱいに風の海が……

 いや、私は、負けない……!

「身に宿る光の結晶よ!凶器の如くその風を切りつけよ!『シャイニーカッター』!」

 光の刃で再び風を切る。

 見えなくても、肌で感じる、風の流れ。近づいてくる、少女の影……

「そこだ!!」

 手から生み出された自身の魔力。

 鋭い刃に変えてゆく。


 それは自分でも驚くほど大きく……

 一本の光の刃が、確かに風を切った。

 一方向に迫って来た風の塊が弾けて四方八方に広がり……強かった風も威力を落とした。


 その時、彼女の姿を私の目が捕らえた。

 

 指先に魔力を纏わせ、そこに光を集める。

「『ミニマムサンダー』!!」

 指先が焼ける感覚がした。

 アネモスに放ったはずなのに、自分が感電して痛い。

「『ウィンドウォール』!からの……」

 アネモスは常に冷静に防御をする。

「『風火散』!」

 あっつ!!!

 

 なになになに……!?!?


「痛っ!!!!」


 避けるとか、そういう思考が回らない。

 驚きすぎて体が硬直した。


 その一瞬で、()()()()()()()()が私に真っ直ぐ襲いかかった。


 衝撃でホールの壁に体が叩きつけられた。

 後から痺れるような痛みが神経を通り、電気が流れるかのような感覚が……した。


「いったぁあ……」


 摩るともっとジンジンする。


「魔力増強!って……、もう無理か」

 まだやる気に満ちているアネモスだったが……私を見て観念したのか、ようやく地面に降り立ち、杖を下ろした。

 

「はい、もう無理です……十分です……」


 流石にこれ以上は……

 というか、魔力増強……だなんて。さっきよりも魔力増した気がする…………。


 知らない技が多すぎる。


「そっか……ありがとうリトル。楽しかったよ。君、なかなか見どころあると思うよ」

「そうかな?」

 倒れ込む私にアネモスは優しく言う。

「だって、この私に勝負できていたもの!大体の子は一発で負けちゃうのよ」

 そりゃ、そうだよね……

 私も負けたけれど、どうしてここまで長く戦えたのかは分からない。

 

「……私でよければ、練習の相手いつでもしてあげるよ!」

 さらに私に杖を差し出して、そう言った。

「本当?」

「うん!だって見どころあるし……それに……」


 それからアネモスは急に真面目な顔になって、問いかけた。


「倒すんでしょう?あなたを酷い目に合わせた、宿敵を、仇を……」


 そうだ。彼女はこれでも手加減したはずだ。相手が私達……共に施設で暮らす、仲間――友達だから。

 大魔術師というぐらいすごいのなら、きっと本当の敵には容赦せず、それこそ一撃で切り倒すだろう。


 私はその問いかけに強く首を縦に振った。

 

「うん」


「よし、じゃあ、これからもよろしくね、リトル。あ、そうだ。良かったらみんなもどうかな?」


 忘れてはいない。

 今回戦ったのは私だけ。でもルティアも、スケールも、リアも……今後も共に行動する。仲間として。

 

その日が来れば共に行く。敵を討ちに……


 ならば、みんな等しく訓練した方がいい。


「アネモスが、いいと言ってくれるのなら!」


 気づくとみんな私の元に寄ってきて、青い瞳を目を輝かせている。


「もちろん!じゃあ授業が終わったら毎日ここにおいで。いくらでもやってあげる!まずは……そうだね、一般魔法から教えてあげよう!!」


 アネモスの心の広さには、驚きつつも……感謝だ。


「よろしく、アネモス!!」

 

 




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