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絶望の世界に、光を  作者: しらつゆ
第一章 ラリージャ王朝 仲間編
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第二話 裏切り者と研究員

追記 2025年1月23日


表現・セリフ等追加しました




「俺は、監視の目をこの手で自ら断ち切って逃走したものだから、見つかれば確実に殺される。だからついていくとは言ったが、途中までだな」


研究所の方面へと歩きながら、スケールは少し震える声で小さくそう口にした。


「君は実験名目で外に出ているのだろう?だったら戻るという選択は正しいと思う。俺は止めはしない」



 止めはしない……

 私の胸が酷く焼かれる感覚がした。


 私も、本当は、本当は……逃げたい。





「じゃあ、元気でな」

「うん……。じゃあね!また会おう!!!」



 研究所の正門の少し前まできた。スケールはこれ以上は近づけないらしく、研究所の一歩手前で足を止めた。

 ここで仲間スケールとは一旦お別れだ。でもきっとまた会えるはず。仲間が居たってだけですごく嬉しかった。




 仲間に大きく手を振りながら走って研究所の正門をくぐる。その時、不意に私の背後で暗黒の空気が掠めた気がした。



「この裏切り者め!!」


 研究員の怒声……そしてパシンっという乾いた音が私の耳に強く響いた。


「っ!!!」


 振り返るとスケールともう一人……研究員が立っていた。スケールは地面に右の頬を押さえて座り込んでいた。


 いつから私達のことに気がついていた……?


 先程まで姿は無かったはずの研究員が、まるで瞬間移動でもしたかのようにスケールと対峙している。


「スケール…!」


 私は戻ろうとして…しかし何故かその足は動かしても動かしても前に進む気配はなかった。


「リトル…さぁ早くこっちへ」

「………!待って!」



 見ると別の研究員が私の腕を掴んでいる。そして強引に引っ張ってきた。その研究員の目もまた悪魔のように鋭い目つきで私を鋭く見下ろしていた。


それなのに私の口から出たのは自分のことではなく…仲間の名前だった。



「スケール…スケールを助けなきゃ!」


「スケール…?ああ、あそこにいる実験体のことか?あいつは裏切り者だ」


「………!な、なんで……」


 裏切り者だからほっとけって…そんなこと……


「スケールは…逃げたんじゃない!家族が心配で会いたかっただけだ!」


「でもあいつは、そう口実を付けて逃げようとしていた。これは間違いない。事実だ。あんなやつはほっとけ。そうすればリトル…君は助かる」



 私の体はジリジリと引っ張られていく。従わないと腕がちぎれてしまいそうなほどの強引な力で。


 少し離れた所でやり合う二人の間……私の目にははっきりと映った。

白い光が。太陽の光で反射して輝く白銀の色。

そして金属が擦り合うような音…鋭く尖った刃先…


  

 それは、私達実験体を脅すために、逃げられないぞということを言葉の代わりに私達に伝えるために研究員全員が所持している長い刀だ。


 何度も何度も私に鍔の先に付いている白銀の刃の光をチラつかせたことはあった。だが、今まで誰一人としてそれを抜刀するものはいなかった。だから正直私はそれをただの脅し道具ですらない、模造刀だと思っていた。


 だが、これは。この刃の輝きと薄さはーー模造刀などではない。


 本物の、刀だ。



「スケール……!!!!」


 

 足を動かす。体を前に出す。そして力いっぱい…私は研究員の掴む手を振り払い、転がるように走った。



 スケールと短剣を持つ研究員の間に割って入る。




 目の前が真っ赤に染まった。

それとともに今まで経験したことのないような激痛が身体中に走った。


「くぅ…………ぅぅ!!」

 自分の体がどうなったのか分からない。

触った先の感触はぐっしょりと濡れていた。


見て唖然とした。


 紅血……体から流れ出た鮮血…脈拍とともに溢れ出る真っ赤な色…。




「しっかりしろ!!リトル……!!!」


「ス……スケール…………」


 目線の先に霧がかかったような人影が見える。


「リトル……ごめん、ごめんよ!俺が、ついていくなんて言ったからっ!」



 その言葉に、私は小さく首を振った。


 違うよ……そんなの違う……君は、何も悪くない……


 暖かい希望の光が照らす。黄緑色の光…。


 ただその治癒力もなんだか弱い。少なくとも私の持つ力の半分以下といったところか。必死に私に治癒力をかける仲間の姿が……少しずつ消えていく。


 このままでは、ダメだ。



 なら。


 私は真っ赤に染まった手を傷口に近づける。

震える手に力を込める。


ーーなにも起きない。




 自分でつけた傷だもんな…

自分の意思でスケールを助けると決めて得た代償だし…


 あたりまえ、か。

 私は意識が遠のいていく気がして…気づいたら真っ暗になっていた。



 

            ✳︎




『……………………』



 ここは一体……

 辺りは暗い。

何もない真っ暗な空間。

地獄とも取れるほどの吸い込まれそうな黒。



『…私……死んじゃったのかな………?』



 周りには誰もいない。

見えないだけで誰かいる可能性はある。でも私の目には何も映っていない。

声も音も何も聞こえない。



『誰か……助けて………!』


 私は怖くなって叫ぼうとした。

でも声すら出ず、心の中で留まった。

これでは誰も駆けつけてくれない。


 どうしようと考えることもせず、私はその場でうずくまった。もう、私は…………



『リトル……、リトル………、聞こえるか?』



 誰かの声がする。一体誰だ?

 この真っ暗な空間に誰かいるのか?


 声を出せればいい。でも出せない。何も見えない。

これは絶望的だ。こんな状況で誰かが来たら、私は本当に終わってしまう。



『リトル……!聞こえるなら返事してくれよ!!』


 聞こえてるよ!!返事したいよ!!

でもできないだけなんだ!!!



『………いいか、リトル。よく聞け。自分の意思で誰かに伝えるつもりで心の中で喋れ。そうすれば俺には聞こえる』



 そこまで聞いてようやく、誰の声だかわかった。

この落ち着いた優しい声。



 私は言われた通り心の中で語る。

誰かに伝えるつもりで言葉を紡ぐ。



『スケール………私、生きてるの?』

『………!リトル……!良かった……』



 回答が返ってきた。一体どういう仕組みだ?


 生きてるのか死んでるのかという回答ではなかったが、この落ち着いた様子からして間違いなく私は生きているのだろう。


でもこれってどういうことなんだろう?


相手の心の中が読めるという彼の特殊能力なのだろうか。それとも…


虚な意識の向こう側で無意識に首の方に手を触れて私はハッとなった。


 ………そうか……そういうことか…………!



 研究員の一人が放った言葉を思い出す。

 ――でもあいつは逃げようとしていた。私にはわかる。どうも()()()という言葉に違和感があった。でもようやく分かった。


このリボンがあるからだ。このリボンは発信機で受信機だ。やはりこれは監視道具。


 なら私にできるのはこれを壊して逃げるのみ!!!





 私は完全に目覚めた。

仲間の泣きそうな顔が私の目にはっきり映った。

身体中が焼き付くように痛い。

胸の傷も完全には治っていない。

正直止血したぐらいの治りようだ。少し動くたびにズキズキ痛みが走る。




 スケールを襲った研究員は遠くでこちらの様子を伺っていた。



「あいつ…………」


 私はスケールに体を預けながら研究員(あいつ)を睨み返した。

ぎゅっと首につけられたリボン(監視装置)を握りしめる。


リボンがパキッと音を立てた。



「完全には壊しちゃダメだ!!」


 突如スケールが私の手を掴み、リボンから引き剥がそうとした。


「なんで!!だってこれは私を監視する物なんでしょう?」


『これは仲間の証だ。確かに研究所からしたら識別するための監視装置。だけど俺たちはこれがあるから心の声で話ができるんだよ。完全に壊すと機能しなくなるんだ』


 ………………仲間の証……か………



 私はリボンから手を離した。

 研究所には本当なら戻ったほうが安全だと思った。戻ったほうが野宿をするよりマシだと思った。

戻ったほうがさらに酷い扱いをされるようなことはないと思った。


でもこの研究所は間違いなく悪だ。

仲間を傷つけるような酷い集団だ。




「裏切ったからなんだ!」


 心の底から全力で声を絞り出す。


「どうして……そんなことをするの?あなたは一体何がしたいの?目的はなんなの?」


 握る拳が震える。


「教えてよっ!!」


「それはお前が、治癒力という特殊能力を持っているからだっ!」


 研究員は何の迷いもなく、きっぱりと即答した。

少しずつ私達に近づいてくる。


 私達を見下ろす目の光がキツさを増していく。



「おまえは、裏切り者を庇うのか?」


 裏切り者…確かに向こうからしたらそうだ。そして私はそれを庇って裏切り者の味方についている。

でも私にとっては裏切り者ではない。


 そう、仲間なんだ。



「…………仲間だから……」


「おまえも逃げる気か?」


 逃げるつもりなど微塵もない。

ここに来たのは研究所に戻って、またモノとして扱われようと何をされようといいってここが私の帰る場所だからって言い聞かせてきた。ここから逃げてスケールと一緒に過ごすということは考えていなかった。



 でも………



 何故か体が激しく震えた。



 ――言い聞かせているだけ。私は自分の心に嘘をついていた。本当は戻りたくないと言っている体を無理矢理ねじ伏せていたんだ。



『リトルも本当は嫌なんだろ?』


『………………俺には、ちゃんと分かってるよ』


 心の声…仲間の証。


スケールがリボン(これを)強引に、完全に、壊すなと言ったのは、仲間であって欲しいからだ。


 私はしっかり頷く。




「じゃあ…………ちょっとだけ………」


 スケールは私に小さく耳打ちをすると研究員に見えないように針のついた容器を取り出すと私の足に刺した。


 その容器には輝く黄緑色の液体が入っていた。驚くことに私の治りきっていなかった傷も綺麗に塞がった。



『君が遠くに逃げるまで俺が研究員を引き止める。その間に逃げるんだ』


 スケールが背中に背負った槍に手をかける。

殺す気なのだろうかというほど殺気に満ち溢れている。



『分かった。でも、殺さないで……』

『っ………うん…』



 私は立ち上がった。

ようやく痛みから解放されて自由になった体で走る。走って走って走る。立ち塞がる研究員の間をすり抜けて逃げる。




「逃すな!!!」


 後ろから声がする。金属と金属がぶつかり合う音がする。


とにかく早く逃げなければ。スケールの体力がどのぐらい持つかわからない。


目指すは…さっき教えてくれた拠点だ。そこに着いたら報告する。


…………よし…!




 街を抜けて角を曲がり、どんどん先を目指して突き進む。たくさんの人に視線を向けられながらも気にせず進む。今は見られても構わない。傷は完治している。





 緑に茂った木々が建物の隙間から見えた。あともう少し…公園をまっすぐ抜けて森の中へ。


ようやく拠点まで逃げてきた。


 逃げ切れた。

 後ろを振り返る。誰も追いかけてきていない。



 ゆっくりとその場に腰を下ろした。呼吸を整えて大きく深呼吸をする。


 でもまだ終わりではない。スケールが来るまでは……




『スケール……!私は今拠点に着いた。だからスケールも早くこっちへ!!』


 心の中で誰かに伝えるつもりで喋る。


『了解。今行く』


よし、ちゃんと伝わっている。返答もある。


壊しかけた仲間の証は壊れてはいなかった。


 


            ✳︎




数分がたった。

ここは本当に静かな場所だ。


他人から見たらすごく変に思われそうだけどここはいい感じに木が生い茂っているから他人の目にもつきにくくていい。




「リトル」

 鉄のような香り。

金色の鎧が木漏れ日で輝く。


後ろを振り返ると、そこには笑顔の仲間の姿があった。




「おかえりなさい!スケール」





ここから先は平和な日々が続く予定です

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― 新着の感想 ―
治癒力の詳しい内容も早く知りたいし、特殊能力?世界観が迫ってきて、楽しいです!
もう少し改行してくれると嬉しいです。
「嫌なら嫌とはっきり言っていい」と言ってくれた研究員は一人だけ……他の研究員たちはリトルさんやスケールさんを家畜のように扱っているみたい(;´・ω・) 逃げたら裏切り者、研究所で搾取されて当然……と…
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