第九話 限界
私達は休憩を取り、私のエネルギーも少しずつではあるが、回復してきた。
しかしまだラルエンスヒーリングを連発できる程のエネルギーはない。
本当にあと二人を救えるのだろうか。
「ねぇ、寒い……今何度…?」
私が助け出した遭難者の一人、リアがスケールの防寒着を体に巻き付けて身震いしている。さらに下におそらく自分のと見られる防寒着も着ているようだが、それでも寒いようだ。
ちらりと横を見る。
確かにスケールは防寒着すら今は着ていない状態。それなのに全然余裕そうだ。
ちなみに私はリアと同じように凍えそうなぐらい寒い。
そもそも登り始めた時から息苦しかったが、治癒力切れも同時に起こした時は本当にヤバかった。
ミラサイトが手元の寒暖計を確認する。
指している数字はマイナス三度だ。
当然ながら麓より少し登ったために標高が高い。標高が高くなればなるほど気温は下がっていく。
元々零度だった訳だからそれよりも低いことには間違いない。
「リア……?昨日掘り出した炎の魔石は溶けちゃったのか?」
ミラサイトは聞く。するとリアは二枚重ねした防寒着の下から何やら赤く光る鉱石のような物を取り出した。直径三センチ程の小さい石だ。
「流石に一日もそのままだと溶けちゃうよ」
「それは何…?」
気になったので聞いてみる。リアは私の手にそれを載せてくれた。
……暖かな温もりが感じられる。石の中心から熱が湧き上がってくるのを肌で感じる。
「……あったかい……」
気づくとそう口に出していた。
「これは魔石の中でも炎の魔石だよ。持っとくとあったかいんだけど、炎の魔石は加工をしてない状態で寒いとこにずっと置いとくと溶けちゃうのよ。ここの山では氷の魔石と光の魔石が掘れるはず。光の魔石もあったかいからあったらまた掘ろう」
リアはそう私に補足をした。ただいまいち分からない。
魔石?加工?
それに炎、光、氷と何やら違うようだけど……
ただ聞くと魔法を本当は知らないということに結びついて疑われそうだったから、詳しいことを聞くのはやめておいた。
「それと……この防寒着って……そこにいる金髪の男の子のかな……?」
……心の中でスケールだよっと付け足す。
リアはようやく、防寒着がもう一枚増えていることに気づいたようだ。
この中で唯一着てないスケールにそれを脱いで渡す。
「あ、ありがとう。貸してくれて。それに見つけてくれて。助かったよ」
しかし、スケールはそれを受け取ろうとはしない。 首を横に振って防寒着の上に手を置く。
「…………持ってていいよ。寒いんだろ?」
「え……でも……それになんで君は平気なの?」
リアは戸惑った様子だ。確かにこんなことをするのは良くない。
確かに私達の治癒力は最強だが、凍死する可能性はあるのだから。
「……俺は平気だから。持っててよ」
スケールはそれだけ言ってリアに防寒着を渡した。 スケールはカバンからこの防寒着よりは薄いが、もう一枚羽織れそうなものを取り出して使った。
「そういえば、リア。俺達の自己紹介してないよね」
その場を離れるリアをスケールは引き留める。
さっき『金髪の男の子』と言われて気づいたのだろう。この子に自己紹介をしていなかったということに。
リアは首を縦に振った。
「俺はスケール。こっちはリトルとルティア。俺の得意攻撃は槍を使った氷系攻撃。リトルは最強の治癒魔術師。ルティアもリトルに次ぐヒーリングをを使える魔術師だ。この三人でパーティ組んで冒険してるんだ。よろしくね」
「うん……!私はリア。得意魔法は炎だよ。他にも水と……あとは少しだけ光系魔法も使えるよ」
さっきプティルに自己紹介した時は私から自己紹介をしたが、今回はスケールが自己紹介を進めてくれた。
うんと頷くリアの姿はやはりなんだかあどけなさがある。
「そうそう。リアは自身の得意属性魔法に加えて二つの属性攻撃を習得している天才魔術師なんだ」
ミラサイトはリアの自己紹介にそう付け加える。
この世界の魔法はなんでも詠唱すれば習得できるような簡単なものではないらしい。
何より生まれた時から得意とする属性は決まっていてそれ以外の属性の魔法は基本覚えられないのだとか……。
炎と水が一番多いという話も、研究所で少しだけ教養を受けていた時に教えてもらった事だった。正直言ってそのぐらいのことしか知らないのだけれども。
……ちなみに私が何の属性を得意とするかはまだ分かっていない。
ミラサイトはカバンを片手に腰を上げた。
「それじゃ、ゆっくり休憩できたことだし、先に進もうか。あと二人。時間はない。早く見つけなければ……」
二人助けられてホッとしてゆっくり休憩などしていたわけだが、まだあと二人残っている。
ただでさえ二人が死ぬ間際に立たされていた訳だ。もう本当にゆっくりなどしていられない。
「行きましょう…」
私もカバンを片手に立ち上がり、もう一度体の状態を確認する。
決して良いとは言えない。だがここでずっと休むわけにはいかない。何かがあったら二人にも助けてもらうとして……とにかく先に進まなければ。
メンバーは二人増えて六人。少し賑やかになったがまだまだ安心はできない…
✳︎
「あ!!みて!あそこ!!」
休憩地点からあまり離れてはいない小さな岩山で、何かを見つけた様子のリアはそこに駆け寄った。
「おお、光の魔石だな。ちょうど良い」
そこには光を反射して黄色く輝く鉱石のようなものが生えていた。
……魔石は普通に山とかに生えているらしい。
「取ってもいい?」
「いいよ」
ミラサイトの許可を得て、リアはその岩山に杖を向ける。採掘して持っていく気満々だ。
さっきの話だと、光の魔石も炎の魔石と同じぐらい暖かいらしいから持っておくと便利かもしれない。
「身に宿る炎の結晶よ!魔力は炎の弾となり、今そこにあらむ岩山を打ち砕きたまえ!『ファイアボール』!!」
杖の先にある二十四面体に削られた炎の魔石が燃えるような赤い輝きを発する。詠唱と共に魔力が杖の先に集まっていく。流れるような詠唱が炎の力を宿す弾を作ってゆく。
そして――詠唱が終わると同時にそれは杖の先から飛び出した。
ドンっと地が揺れ、下から突き上げるような衝撃を感じた。
打ち出されたファイアボールは見事に狙いの岩山に命中して崩れ落ち、パラパラと小石が降ってきた。
これだけの威力のあるファイアボールだが、目的の光の魔石は割れたり無くなったりはせずそのままの形で美しく残った。
「はい、スケール。あげる!!」
取った光の魔石を持って駆け寄った先はスケール。
……リアがこの魔石を取ったのは自分のためではなく、私達のためだったのだ。スケールは駆け寄ってきたリアの帽子を撫でる。
「……ありがとう、リア。本当に持ってていいのか…?」
「うん…!あと二人のもあるよ!今回は結構大きいの取れたから」
リアは後二つ…私とルティアにもその光の魔石をくれた。リアの優しさも相まってかさっきのと同じぐらい…いやもっと暖かい温もりが感じられる。
「優しいね……リア」
私も自分より小さな背丈の少女リアの帽子を撫でた。
「じゃあ行こう…!」
リアはすごく明るく元気に雪の上に足跡をつけ歩き出した。
「おい!誰かいるぞ!!」
プティルがそう声を上げる。
さらに山の中腹から少し上がったところまで歩いた時……木々が不自然に揺れたのが見えた。最初は木の上の雪が重さで落ちただけかと思ったが、そうは見えない揺れ方をしているように感じたのだ。
「…………確かに、この辺りで往昔視織が反応している」
スケールはそう言って辺りを見渡す。私も木の後ろや自分の立っている雪の下に注意しながら周りを探す。
「ねぇ、スケール。往昔視織って何…?」
リアは聞く。
きっとこれから初めて会う人にはほとんど聞かれそうである。私もスケールも何度説明したか分からない。
「足跡など、捜索する対象が過去につけた後を見ることができる能力だよ」
スケールは降り積もった雪を眺めながら、手短に素早く説明をした。
「あ!何かある!!」
説明をしていたら突然リアが声を上げた。
腰を屈めて何かを拾い上げる。手に金色のブレスレットを持って立ち上がり、ミラサイトに見せに行った。
「…………これは……ジュアのだ」
残った二人のうち一人の手掛かりを発見……やはりこの辺りにいるはずだ。
すると……何やら震えている影を見つけた。
「……あそこ。リトルっ」
「うん……」
スケールに言われて、私はその影にゆっくりと歩み寄る。
影の色がはっきりしていく。
木の下で体を震わせている人の影……
「ジュア!!」
ミラサイト、リア、プティルもその影に駆け寄っていく。
ジュアは私達を見て安心したかのように雪の上に体を預けた。
「…………リトル、いけるか…?」
私は首を縦に振り、さらにジュアに近づき、その場に腰を下ろす。
ジュアの腕に手を乗せる。
治癒力が足りていない。それでもこの状況で回復をできるのは私しかいない。
治癒力の結晶……黄緑色の光……
弱い。さっきより確実に弱い。淡い、光。それでも体の全てのエネルギーを振り絞る勢いで力を注ぐ。少しだけ明るくなったが、またすぐに淡い光となって、やがて消えてしまった。
これが、私の限界なのかもしれない。
…………ハァ、ハァ、ハァ、ハァ………………と何度も何度も激しい呼吸を繰り返す。脈が早く打つ音が体内に響き渡る。胸が苦しく、身を屈めながら呼吸を落ち着かせる。
ジュアの状態はまだ悪いまま。ラルエンスヒーリングを使えるほどの体力がもう残ってはいなかった。
「…………リトル……私を頼ってもいいって言ったのに……」
優しい声……霧が掛かった視界にルティアの影が映る。
私のすぐ右隣に腰を下ろし、私と同じように手を広げる。
ラルエンスヒーリングほど強くはない――だが弱っている私より、確実に強い力があった。
役に立てていないという気がずっとしていたのだろう。今まで私はルティアやスケールに弱っている他人に治癒力をかけるように言ったことはなかった。 私はただでさえ戦えないからヒーラー専門で冒険者のパーティを組んでいたから。でも今、私は自分の力の限界を知ってしまった。
「……………君たち……助けてくれたのか……ありがとう……」
ルティアの治癒力の光が消える。ジュアも無事目を覚まし、再び立ち上がることができた。
…………あと残っているのはラミリアのみ。もう少しでこの雪山から降りられるだろう。
✳︎
再び白い雪が舞い降りてきた。ダイヤモンドのように光を反射し、輝きながら降り積もる。
リアからもらった光の魔石。それがあるからやはりすごく暖かい。もうすでに気温はマイナス五度未満だろうが、それほど寒いと感じないぐらい暖かな温もりがポケットから湧き上がる。
ジュアを助けてから数時間……登り続けてきたが、一向にラミリアただ一人の手掛かりが見つからずにいる。それに雪がまた降り始めてしまった。そろそろ日も傾いてくる頃だろう。状況が悪化する前に見つけ出さなければならない。また明日という訳には絶対にいけないのだ。
私の体力もいつしか回復しており、今ならラルエンスヒーリングをギリギリ打てそうである。
「…………ラミリア…………」
「ラミリアなら大丈夫だよ」
「あいつは強い」
ミラサイト、リア、プティルが口々にそう言うが、私は不安でしかなかった。
死亡したものは回復できない。これは世界の決まりでもある。ただ、例外として超級の治癒魔術ではそれも叶ってしまうという。私はその治癒魔術を使えるという人にあったことはないが……
「そういえば、最後にラミリアと一緒にいたのは誰…?」
私は三人に聞く。その情報が分れば少しは場所を絞れるかもしれない。
「俺だ」
ミラサイトは一言それだけを私に告げた。
「つまりは最後にいなくなったということ……だよね」
「そうだ」
ラミリアは、本当の本当に最後の遭難者。五人いたはずのメンバーが気づいたら四人、三人、二人…といなくなってゆくその現実に耐えられなかったのだろう…………
雪はどんどん強まってゆく。視界は白くなっていき、雪けむりで先すら見えなくなってきた。
「これでは先に進めない……とりあえずそこの洞窟に避難しよう」
スケールは言う。
「そうしましょう」
ちょうどいいタイミングで洞窟のような穴を見つけた。これで先に進むのは危険すぎる……この判断は正しい。
私達は洞窟の中に入り、雪が弱まるのを待つことにした。
カバンに入れて来た薪を置く。
この雪山にはろくに木が生えていないし、何より湿っているから薪として使うことはできない。だから多少重くても持っていく必要はあると思って入れておいたのだ。
その薪にリアが得意とする火魔術で火をつける。オレンジ色の炎が暗い洞窟の中を明るく照らし、暖かな空気が広がった。
冷たい雪でビショビショに濡れたローブやら防寒着を脱ぐ。再びリアがちょうどいいぐらいの温度で火魔術を操り、それを乾かしてくれる。
本当に今日のような雪山は火魔術が役に立つ。早い段階で救出できてよかった。最初スケールが崖から滑り落ちた時は焦ったが、おかげで見つけることができたのだ。
「ありがとう、リア」
ルティアが言い、えへへ……とリアは再び幼い笑みを浮かべる。
「どんどん気温が下がって来ている。それにこの猛吹雪……。諦めた方がいいのではないか……」
不意にプティルがそう口にした。
冷静に考えると、もう随分と手遅れ。それに遭難したのが昨日の昼だとするともうすぐ丸一日が経つのだ。
「いやだ……ラミリアだけ助けられないのはいやだ……!!」
リアはそれに反応して首を何度も横に振り、声を上げる。
「私だって、あの三人に助けられた一人だよ。リトルの力はすごいんだ……私はね、今まで見てきた治癒魔術師の中では最強だと思ってるよ。だから……助けられると思うんだ………。だから……」
リアは私を信じてくれている。三人目のジュアを助けた時は本当に情け無い姿を見せてしまっただろうに、命の恩人とでも言うかのように私達のことを慕ってくれている。
「でもな、リア。普通に考えてこの猛吹雪の雪山で一日生きるのは厳しい。それはリアも分かるだろ?」
「うん……私も本当に一人になった時はもうダメかもって思った。でも、信じてたら助けてくれたんだよ。ラミリアもきっと私達のことを信じて待っててくれてると思う……それでほっとくなんて、私はできないよっ!!やっぱり助けに行く!」
リアは洞窟の外に出て行こうとした。スケールが洞窟の前に立ち塞がり、それを必死に止める。
「リア、落ち着け。今出て行ったらまた遭難するかもしれない。心配なのは分かる。でも今はダメだ。」
スケールはリアの背丈に合わせてしゃがみ込む。
「大丈夫。俺達を信じてついてくるんだ。分かったな」
「ごめんなさい……」
寒さで少しだけ声が震えた優しい声に、リアは落ち着きを取り戻した。
「話を続けよう」
再び七人で焚き火を囲んで話を始める。まずスケールが話を始めた。
「昨日のラミリアの状態は……?」
「元気だった。足取りもしっかりしていた。一人目…リアが遭難した時助けに行こうとしたプティルを止めようとするほど周りがよく見えていた」
ミラサイトがそう答える。
「いつどの辺りで遭難に気づいた……?」
続いてルティアが質問をする。
「ここから少し行った先。そこで突然いなくなっていることに気づいた。俺は先に行っていたからすぐには気がつけなかった」
「ここから少し行った先……か……」
この辺りを探してもいないのはそういうことかと理解する。まだこの時は遭難していなかった訳だ。本当のラミリア捜索はここからだ。
「ここにいる全員が持っているが……」
ミラサイトが手に小さな笛のようなものを載せた。
「これはコレヌーディアの角から作った笛だ。何かがあったらこれを鳴らすように言っている」
「つまり、生きていればこれが聞こえる可能性があると……」
「そうだな……」
これはいい情報だ。試しに鳴らすと洞窟の中に甲高い音が鳴り響いた。遠くまでよく聞こえそうだ。
気づくと暴風雪は少しばかり収まり、洞窟に響いていたヒューヒューという風の音も小さくなった。
少し洞窟の外に顔を出し、外の様子を確認する。まだ雪は降り続いているが先程のような吹雪ではない。
ちらりと横を見る。スケールが耳を澄ませ何かを聞いているのに気づいた。
「静かにっ」
口元に人差し指を当てて短く私達にそう声をかける。私も同様に外の音に耳を傾けた。
……ピィィィ……とよく響く笛の音がした。二回、三回……私達を呼ぶ音がしたのがはっきりと分かった。
「聞こえたか……?」
スケールが問う。全員が頷いた。
「ラミリア……!まだ生きてる……!!!」
リアが一際大きく笑顔を作る。焚き火の火を消し、早く先に進もうという表情で防寒着を羽織り、カバンを背負って洞窟の入り口に立った。
「行こう!ラミリアを助けに!」
リアの合図とともに、私もスケールもルティアもラミリアもその他全員が防寒着を羽織りカバンを背負う。
「「「はい!!!」」」
全員が大きく返事をし、私達は洞窟の外へと再び足を踏み出した。
「ラミリアー!!!」
冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んでリアは仲間の名前をひたすら叫びながら先に進んでいく。
吹雪によって再び新しい雪が降り積もり、雪の深さが増して進みにくくなった。もしかしたらあったかもしれない足跡や手掛かりも雪に埋もれ消えてしまっただろう。
そういう時にスケールの能力が本当に役に立つ。
「こっちだ。この辺りで足跡が途切れている」
スケールが雪を手で払っていく。すると……さっき使っていたであろう笛が見つかった。
「やはり、この近くだな」
スケールが雪を掻き進めていくと、全員がこの付近の雪を掻き分け始めた。時々リアが火魔術で雪を溶かす。それを何度も繰り返す。すると……
埋もれた人影が見えた。最後の遭難者、ラミリアだ。
「ラミリア……!!」
リアが一番にその手を握る。私もラミリアの左手を握った。
冷たい、真っ赤に悴んだゴツゴツした手。ラミリアは目すら開けることはないが、口が少しだけ動き、笑みを作ったように見えた。
「リトル!!お願い!」
リアが私の目を信じ切った強い眼差しで見つめる。
洞窟で休んだことも効果があって今は治癒力も回復している。
絶対に大丈夫。私はラミリアから手を離し、その右手を広げ、力を込めた。
……黄緑色の明るい光が輝き始めた、その瞬間――
バチッとという音を立てて、発動したその治癒力は思いっきり弾かれた。
「うっ……!!」
「リトル!!」
私の体も勢いのあまり弾き飛び、次の瞬間には右腕に焼けるような猛烈な痛みが走った。左手で右腕を掴み、その場にうずくまった。右手からは紅血が流れ白い雪の上にこぼれ落ちた。赤いその色はやけに強く赤い輝きを発する。
その私の体はスケールが抱き止め、今度はルティアがラミリアに歩み寄ろうとする。
「待って…!」
ルティアは私がダメだった時の大事な切り札だが、私はルティアの防寒着を左手で後ろから掴んだ。
「ルティアも私みたいにきっとなる……だから、やめて……」
私はルティアの背中にそう声を掛けた。
ラミリアは目を覚ますことはなく、今もまだ雪の上に倒れたまま。
私のエネルギーが強く弾かれた原因……それは……一つ。
「ラミリアは……ラミリアは、亡くなった」
……世界の決まり。
それに抗うことは、私にもできないのだ。
これが、私の最大の力。限界は超えられない。




