8 凛、新戦力を発掘する。
奏山先生と扉の前に立つ私は、体育館の反対側に固まる皆に視線を向けた。
生徒も全員が教師達から説明を受けて事態を理解している。唯が一人で足止めしてくれているということ、今は息を潜めて祈るしかないということ。
私も同じ気持ちだ。
異世界の門には通行回数に制限がある。あちらからとこちらから、通れるのはそれぞれ二十四時間に一回のみ。
つまり、現在いるフラムメウス五頭を何とかすれば、あと丸一日は安全ということになる。
応援が到着するまで唯が五頭全てを足止めできたら、今回のダンジョン出現による被害はゼロ。もし一頭でも逃してそれがこちらに来たなら被害は絶大なものに……。
本当に祈るような気持ちだけど、この想いが誰よりも強いのは奏山先生だろう。
彼女は扉に齧りつくように引っつき、微動だにしない。
その顔が見る見る青ざめていく。
ああ、これは……、まずい、まずい……。
先生はゆっくりと振り返った。
「……もう、直村さんだけでは抑えられそうにありません……。どどどどどうしましょう……」
「私に尋ねられても」
その時、また右眼がシパシパする感覚に襲われた。
これ、唯と一緒にいる時の感じに似てる。実は微かにだけど、奏山先生にも反応してるんだよね。
そして、今は二人とは違う新しいシパシパだ。
伝わってくるのは、学生達の中から……?
「…………。先生、もしかしたら生徒の中に、能力を隠している人がいるかもしれませんよ」
「能力を隠して……、それです!」
奏山先生は皆が集まっているステージの方に走っていく。
「この中に戦闘魔法に目覚めている方はいませんか!」
静まり返る一同。
それでも先生は諦めない。必死の表情で訴えかける。
「こんな場で力を明かせなんて無茶を言っているのは承知しています! ですが緊急事態なんです! どうかお願いします!」
皆に向かって頭を下げた。
奏山先生だって分かってる。ここにいる全校生徒を合わせても千人ほど。ランク認定を受けられるような魔法所持者は、いない確率の方が遥かに高いって。
分かっていても、やらずにはいられないんだ。この場の全員の命が懸かってるから。
お願い、もしいるなら出てきて。
すると、生徒達の中でスッと一本の手が伸びた。
周囲の皆が空間を作ると、そこには髪の長い一人の女子生徒が。
上ばきの色が違うから上級生かな。
「……二年B組の、恵田絢です。戦闘魔法と呼べるか分かりませんが……、そこそこ大きな物も動かせます」
しっとりした何だか和風な先輩だ。
だけど、動かせるってどういうこと?
奏山先生が顔を輝かせて彼女に駆け寄る。
「念動力系ですね! 対象物に制約はありますか?」
「えーと……、特には。生物以外なら、大丈夫だと思います」
先輩はステージ上の演台に手を向ける。校長先生が使ったりする、そこそこ大きなその机が軽々と浮き上がった。
これを見た奏山先生はもう興奮が止まらない様子。
「すごいじゃないですか! 実力的にはEからDの間くらいですよ! 訓練を受ければ絶対もっと伸びます!」
本当にすごい。一万人に一人程度の人材が千人の中にいた。
これなら二人が協力すれば何とかなるかもしれない。
ところが、意気揚々としていた奏山先生が突然停止する。
「一頭こちらに来ます! 私が迎撃しますので皆さんは姿勢を低くして身を守ってください!」
姿勢を低くして凌げる相手ではないと思いますが。
先生、かなり慌ててるけど大丈夫かな。
もちろん他の人達の慌てぶりはその比じゃない。急に戦力として期待を背負うことになった絢先輩も例外ではなかった。
「私はどうすれば! 魔獣なんて戦ったことないのですが!」
「あなたが操った物なら魔獣にも効きます! 何でもいいので飛ばしてぶつけてください!」
奏山先生はざっくりした指示を残して扉の方に駆けていった。
ダメだ、時間がなさすぎる。二人で協力……、はできる気がしない。
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