7 凛、空であれこれ聞く。
学校の上空に浮かぶ私と奏山先生。さっきまでいた校舎に目をやると、突然その一角が吹き飛んだ。
私達の教室があった場所、つまりダンジョンが出現した場所になる。
そこからすぐに唯が走り出てきた。
続いて、彼女を追いかけてあのフラムメウスという双頭の虎が五頭。
ん? 五頭?
「先生、虎が五頭に増えていますよ」
「……ええ、フラムメウスは単体でもCランクという強さなのですが、厄介なことに群れで行動するんです」
「魔獣にもランクがあるんですね」
「基本的に人を基準にしていますので、CならC級と同等の強さということになります。倒すには、B級あるいはC級二人以上の戦力が必要です。ですので、ダンジョン自体はBランクなんです」
「それって適正ランクがB級ってことですよね? めちゃハイレベル。だから唯は最悪って言ったんだ」
「本当に最悪なんです……。咲良さんは、大変な被害を出した、駅のホームに出現したダンジョンを覚えていますか?」
「まさか、あれがBランク……?」
「いえ、あれでCランクです」
……これは、本当の本当に最悪だ。下手したら全校生徒が皆殺しにされる……。
それも全ては、今戦ってくれている唯に懸かってるんだけど。
当の運命を握っている唯は、飛びかかってくる大虎を電撃で弾き返したり、大虎が二つの口から吐く炎を雷で防いだり、と防戦を強いられていた。
それでも、すごいと言わざるをえない。
あんな大きな怪物を五頭もまとめて相手しているんだから。私が流出動画で見た魔獣はもっと小さかった。一頭一頭がCランクというのも頷ける。
……唯、やられたりしないよね?
「先生、唯は大丈夫ですよね?」
「……大丈夫、だと思いますが、……分かりません。……A級でも一人でフラムメウスの群れを討伐した記録はなかったと思いますので」
自信なさげにそう呟いた後に、奏山先生は「あっ!」と大きな声を上げた。
「直村さんごめんなさい! 下に行きますよ咲良さん!」
急降下で体育館の前に着陸した先生はすぐにスマホを取り出す。
私に対しては建物の中に入るように促した。
「皆の所に行ってください!」
言われるままに体育館の中へ。先に避難していた他の生徒達と合流した。
程なくして電話を済ませた奏山先生も入ってきた。私は静かにその傍らに立つ。
「唯が命懸けで戦っているのに、ダンジョンランクを報告して応援を呼ぶのを忘れていたんですね?」
「……仰る通りです。ですが、本部の方でも魔力を感知してすでに動き始めてくれていたので大丈夫です。……そもそも、空で咲良さんがあれこれ聞いてきたからですよ」
どうもすみません。
奏山先生は他の先生方に状況を説明しに行った。新卒でも養成所の訓練課程を終えたエキスパートなので、彼女の話に校長先生も教頭先生もしっかり耳を傾ける。
小さな奏山先生がやけに大きく見えるね。
教師同士の打ち合わせが済むと、私達生徒は体育館の奥(ステージのある方)に誘導された。
出入口の所には奏山先生が一人で立つ。
あれ、でもちょっと待って。
私は先生の元へと駆け寄った。
「魔獣が入口から来てくれるとは限らないのでは?」
「またあなたは勝手に……、自由人ですか。確かに扉を開けて入ってはくれないでしょうが、こちらが戦闘の行われている校庭側ですから。外の状況は私が魔力感知で把握しているので心配はいりません」
「心配しますよ。先生、あの虎一頭とでも戦って勝てるんですか?」
「…………。私がもう一人いれば勝てる、かもしれません」
……心配するなという方が無理です。
お読みいただき、有難うございます。