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4 凛、魔法少女と出会う。

 唯は小さく伸びをして席から立ち上がった。


「魔法なんてなくても生活できるじゃない。下手に戦闘魔法なんて発現したら、知らなくていい世界を知ることになるわよ。新しい門が開く度に死傷者が出てるのは凛だって知ってるでしょ? あと、民間の探索会社で結構被害が出てるのも」

「私はネットの噂程度だけど……」

「ネットの噂、どれも割と当たってるわ」

「じゃあ……、めちゃ怖い世界だ」


 民間にもダンジョンを探索する会社がいくつもあり、一通り国の調査が済んだ所にランカー達を派遣している。

 調査済みとはいえ、不測の事態も起こりうる危険な仕事なんだよね。ハイリスクハイリターンの世界。

 なので、戦闘魔法が発現しても認定を受けず、ひた隠しにして普通の暮らしを送っている人が相当な数で存在するらしい。

 何ら変わらない日常が続いているように見えても、ここはもうかつての日本ではなく、裏側がある別世界なのかもしれない。

 唯は私なんかより、ずっとその裏側を知ってるんだ。

 彼女は鞄を取って帰り支度を始めていた。


「上司からは、私が前線に出なきゃならなくなったら、この国はもう本当に危ない、と言われているの」

「前線って」

「パニックにならないようにどこの国も明言は避けてるけどね、これは異世界との戦争よ。五年前から、世界各地で起こっていた紛争がめっきり減ったでしょ?」

「人間同士で争ってる場合じゃないってこと? ……もう世界的に結構危ないんじゃ……」


 私の問いには答えず、唯は教室の扉に歩いていく。出る前に振り返ってもう一度私を見た。


「私、凛のこと気に入ったかも。友達になりましょ。私の方はあまり学校に来れないと思うけど、よろしくね」


 そう言い残して、国民的ヒロインは帰っていった。

 初日から何だか大変な友達ができてしまった。できないよりはいいか。

 さあ、私も早く帰ろう。

 ……あれ? なぜかまた右眼がシパシパする。

 眼帯の結界があるのにどうして?


「く、右の魔眼がうずく……」


 とか口走っていると、教室の入口から担任教師が覗いているのが見えた。

 …………。


「見ていてもけん玉はしませんよ」

「勝手に見ちゃってすみません! ……その、直村さんのことなのですが。私、どうしたらいいか分からなくて困っていたんです……。咲良さん、何卒よろしくお願いします!」


 こちらからもよろしくと言われた。

 なお、担任の彼女は奏山かなやま先生という。身長百四十センチ半ばくらいの小柄な先生で、その見た目の愛らしさから、学校生活が始まってすぐに生徒達の間で人気が出た。

 クラスの子に聞いた話によると、奏山先生は大卒一年目の新任で、大学四回生の去年は国の養成所にも通っていたらしい。

 そう、先生はD級の戦闘魔法保持者だった。


「あと先生はアニメも大好きで、日朝の魔法少女のやつは欠かさず見てるんだって」

「なるほどね、私達の担任がそんなユニークな人だったとは」


 私は、入学式の日から一週間ぶりに登校してきた唯に奏山先生のことを教えてあげていた。


「そんなこと教えなくていいです!」


 休み時間、教室で唯と喋っているところに先生がわりこんでくる。


「今は学生の貴重な休憩時間です。教師だからって何をしてもいいというわけじゃありませんよ」

「す! すみません! ……直村さんに溜まっていた連絡のプリントを渡しにきたんですよ」


 それは失礼しました。

 ところで、唯にこの頻度の登校で留年しないのか尋ねたら、定期試験をパスすれば大丈夫な契約になってるんだとか。彼女と話していると、ルールというのは変えるためにあるんだな、とつくづく思った。

 プリントを確認し終えた唯はそれらをトントンとまとめて机に置く。


「先生、次からは連絡事項はメールでお願い」

「……分かりました」

「余計なことかもしれないけど、D級なら一課は無理でも二課なら入れたと思う。そっちは選ばなかったの?」


 異世界対策局の戦闘二課は一課の支援を職務とするらしい。戦場がこちらの世界の場合、周囲の人の避難も担ったりするので重要な仕事だ。

 私も興味を引かれ、唯と二人で奏山先生の答を待った。


「教師になるのも子供の頃からの夢だったので……。二課も大事なお仕事だと思いますが、やはり私は……、その……」


 小さな体でモジモジする先生。確かにとても愛らしい。


「……皆を守る魔法少女になりたかったんです」


 ……そう、ですか。

お読みいただき、有難うございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 担任も厨二病だった!(笑)
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