3 凛、A級の友達ができる。
先生もクラスメイト達も、呆然とした目でけん玉をする私を見てくる。
すると、隣の席からまた笑い声が。
「あんた、何、大スベリしたのなかったことにしてけん玉してるのよ。面白いから別にいいけど。凛って呼ぶわね。私は……、あ、先生、先に私の自己紹介やっていい?」
担任教師がこくこくと頷くと、派手女子は丸々一列の生徒をすっ飛ばして席を立った。
「私は直村唯よ。魔法省の異世界対策局に勤務してるわ。広報もやってるけど、所属は戦闘一課ね。ちなみにランクはAよ。よろしくね、凛」
完全に私一人に向けての自己紹介だった。
だけど、まさかA級とは。
正式には、戦闘魔法A級。戦いの魔法は魔獣への有効度で、世界基準でEからAの五段階に分けられている。
そもそも役に立つ戦闘魔法を発現すること自体が珍しく、E級でも数千人に一人くらいなんだとか。A級ともなれば数十万人から百万人に一人。
国に所属するA級は、数は公表されてないけど二十人ほどじゃないかと言われているね。
その一人が今、私の目の前に。
高校初日の今日は授業がなく、クラスでの大まかな説明の後は解散となった。
私と唯はそのまま教室に残って二人で話しこんでいた。
スマホでニュースを見ながら、そこに出ている唯と私の前にいる唯を見比べる。
「本物だ。広報もやってるって言っただけあって、結構あちこちに出てるね」
「いわゆるマスコットよ。国の機関だからメディアに出る時はきちっとした格好しなきゃならないし、せめてプライベートは自由にさせてって言ったの。それで融通の利くこの学校に入ったわけ」
「ふむ、国公認の校則破りか」
「私、公務員よ。校則はしっかり守ってるわ、ほら」
唯が見せてきた学生手帳のページには、『一部の生徒は自由な服装、及び、授業中のスマートフォンの使用を認める』と記されていた。
……これ、明らかに後でつけ足された感じがする。唯のための校則だ。
彼女はかなりの美人だし、国民的ヒロインというやつなんだろう。
私のスマホを覗きこんできた唯は、その中で喋っている自分を見ながらため息をついた。
「本当はね、私の仕事って大半が広報なの。年齢的なこともあって、危険な現場には行かせてもらえないし」
「そうなんだ。唯の魔法って何なの?」
私が尋ねると、彼女は人差し指をピンと立てた。
まるで科学の実験のように、その先端からバチバチと放電。
「電気を発生させる魔法よ」
「……それって、すごく便利じゃない?」
「そう、すごく便利」
唯は出したままだった人差し指を私のスマホに触れさせる。
すると、瞬く間に充電率が百パーセントになった。
……いや、こんな使い方まで可能なら便利どころの話じゃない。電子機器に溢れた現代社会では……。
「神だ、神の力だ」
「実際にはアクセスする機械の構造を把握してなきゃならないから、色々と扱おうと思えば結構大変だけどね」
じゃあ、唯はスマホの構造、だけじゃなく色んな機械の構造まで把握してるってことだよね。派手な格好してるけど、実はかなり頭がいいのかもしれない。じゃなきゃ、国のマスコットは務まらないか。
スマホの中で、きちっとした身なりで喋る唯をもう一度見た。
A級で神の魔法を持つ少女、大事にされるし多少のわがままも聞いてもらえるわけだ。
「いいな、私もA級の神みたいな魔法、発現しないだろうか」
こう呟くと、唯は私の眼帯をしている方の目を見つめてきた。
「結局それ、魔眼じゃないのよね?」
「これはただの魔障だって。だから未来のヴィジョンも見えない」
「未来のヴィジョン……?」
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