2 凛、高校デビューでやらかす。
魔法診療科の女医さんは山田先生といった。
少し席を離れた彼女は、医療用の眼帯を持って戻ってくる。それを、私の右眼を覆うようにつけてくれた。
「あなたの症状はおそらく一時的な魔障よ。この眼帯にはあっちで採取された樹皮が編みこまれているの。魔力を遮断する小さな結界を張ってくれるわ」
本当だ、右眼のシパシパするのが治まった。
先生によれば、しばらくこれをつけていれば自然と元に戻るとのこと。
「たぶん一か月くらいね。あ、完治したら眼帯は返しにきて。それ、割と貴重品だから」
異世界由来の物が使われているし、そうだと思う。
治ったらちゃんと返しにきます。
だけど、一か月も掛かるのか。私は大切な高校デビューの日もこの眼帯をつけて挑まなきゃならない。
……あ、いいこと思いついたかも。
そうして迎えた入学式当日。
式典は滞りなく終わり、私達一年生はクラス分けを確認して各自の教室に入った。
担任の教師は身長が低めの女性の先生だ。まず彼女が学校生活についてなどの説明を始めた。それを聞きつつ私はクラスメイト達に視線をやる。
やっぱり皆、どこか緊張しているようだね。
無理もない、これから避けては通れないあれが待っているんだから。
私の方は準備万端だよ。
それにしても、私の隣の席に座っている子……、すごいな。
髪を明るい色に染めた女子で、耳にはピアスまでつけている。かろうじて学校指定のシャツとスカートを着ているものの、それ以外の上着や靴、鞄などは全て私物。
確かにここは校則ゆるめの私立学校だけど、さすがにこれはアウトでしょ。そして今は、先生が話しているにも関わらず一切遠慮せずにスマホをいじってる。
私の視線に気付いた彼女がこちらに振り向いた。
「何?」
「やりたい放題か」
思ったことを口にしただけなのに、教室中の注目が私に集まった。
先生も時間が停止したように硬直。
え、皆どうしたの?
静まり返った教室で周囲を見回していると、隣の派手な子がくすっと笑った。
「あんた、私のこと知らないの?」
「知らない。芸能人とかだったりするの?」
「似たようなもんね。やりたい放題なのは、私はそういう条件で入学したから」
「えー、いいな。何者なのか教えてよ」
「どうせこの後、あれがあるでしょ。先生、もうやってくれる?」
彼女にせっつかれ、固まっていた担任教師が動き出す。
「は、はい、それでは出席番号順に自己紹介をしてください」
ついに来た。
この派手女子が何者であろうと、先に私の順番が回ってくる。私のとっておきのネタを見せつけてやろうじゃない。
そうやってすました顔をしていられるのも今の内だ。
「なんて自信に満ち溢れた顔してんのよ、あんた……」
「見せつけてやろうじゃない」
「え……?」
隣の席を牽制している間に私の番となった。
立ち上がった私に、再び全員の視線が集まる。
「私の名前は咲良凛です。今日は事情があって眼帯をつけてきています。…………、く!」
突然、私は右眼を押さえて屈んだ。
「咲良さん! どうしたの!」
先生が慌てた様子で駆け寄ってくる。
心配させてすみません。ネタなので大丈夫です。
では、参ります。
「右の魔眼が、うずく……!」
私には分かった。この瞬間、教室の空気が凍りついたと。
駆け寄ってきていた先生は、時間を巻き戻すように教卓に帰っていく。
……私の渾身の厨二ネタは、大惨事になった。
…………、あれを持ってきておいてよかった。
私は机の横にかけた鞄を探る。
「私の名前は咲良凛です。けん玉やります」
カン、カン、カン、トン、カン、トン、カン。
氷点下みたいな教室に、私のけん玉をする音だけが響いた。
お読みいただき、有難うございます。
この下(広告の下)から評価、ブックマークを付けていただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。