悪魔との出逢いは
“おはよう”や“おやすみ”を聞いたことがない。 それどころかその存在も知らない。
彼女の髪や服装はしっかりと毎日のように手入れされていたと言うのに。
「ああ、コイツは失敗だな」
そう言われれば、少女。黒ノ江ナカラはいつものように───
「わたし、知ってる。ある日御本を読んでもらったことがあった。それはとても……憧れのお話だった」
早く抜け出したかった。だから必死に駆けていく。
外の世界を見たくて仕方がないままに飛び出してしまってからはもう後戻りができなくなったのだった。
「わあ…」
雲ひとつなく反対に不自然に澄み切った青空に一筋の光が射した。とにかく少女は不思議で、雷というほど悪い天気では絶対にないはずなのにどういうことなのか突き止めたいという衝動に負けてしまう。その光の方へどんどん迫っていくことに決めた。
「宝石が輝いてる」
初めて見る光景に思わず目を瞬かせながら光の方に到着した。なんとそこにはデカい石像がポツンと立っている。悪魔が槍を持ち、前を向き自分の強さに見惚れて気取ったかのような表情の石像。
ずっと外へ出ることは禁じられていたお屋敷から飛び出してきたからか、森のはずれにある見たこともない石像を見たことで大分離れた場所まで来たことが理解できた。
好奇心に負けゆっくりと近づいてみるとそこには何か彫られているのを確認する。
「ん、…わかんない」
当たり前である。勉強なんて強制でもさせてもらうことなどなかったのだ。此処に彫られている記号の列のような物に触れるには自分以外の解読することが出来る相手に聞かせてもらうことでしか不可能であるのだから。
「何かお困りなのかな?お嬢さん」
突然耳元で聞き覚えのない声色が囁いてきた気がして、混乱の中辺りを見回す。しかし気のせいだったのか何処にも姿は見えない。
「ああ、そうそう。ボクから見せない限りキミには見えっこないか」
「…誰」
空気に向かって話しかけるだなんて恥ずかしいことだが人気もないので、その様な事を気にしている暇は正直なところ無い。
だから特に何も思わないことにした。
「今キミのためだけに……登場させてもらうから。特別だから、ねぇ?」
視界にはその声の主と思われる相手が、仁王立ちで浮いていた。銀髪のウルフカットに中性的な声に顔立ち、マントのような物を羽織った服装はあまりにも彼というべきなのか彼女と指すべきなのかが考え難い。
「━━黒ノ江 ナカラ、だね?」
相手は薄気味悪さを感じさせるような笑みを浮かべた。まるで少女のことを全て見透かしていると言わんばかりの表情で。
「貴方は…なんでわたしの名前がわかる?」
「当たり前だよ。ボクは君と契約しにきた悪魔なのだから」




