一話 追放と応募
「クロー」
男性の声が聞こえて振り返る。
「ん?なに?」
俺はクロー、Sランクパーティーの『嵐の王』の一員、役割としては付与師をしている。
俺に声をかけたのは同じパーティーのフラックだ。ヘイト役としてダンジョン内では頑張っている。頑張ることは当たり前かもしれないな。
どうやらフラックはどこか機嫌が悪そうだ。俺は心当たりがないがフラックは酒を飲むといつもこう不安定になる。
俺はまだ未成年なのでお酒は飲まない。
「クロー、お前は追放する」
「了解」
そうかい、当たり前だろうな、俺ことクローは仮面をつけてるから他のメンバーからも不気味に思われている節があるからな、でもそれが原因ではないはずだ。
「あれ?意外にもあっけないですね?」
横の方から女性の声が聞こえてくる、同じパーティーだったエルザだ。俺は振り向くことはしない。
その間にも俺はマジックバックの整理をしながら、
「一応聞いておくが、追放された理由は?」
「心当たりがないのか?!」
どこかお怒りのようですね、ふう、整理完了、いらないものはここを出る前に換金しておこう。マジックバックの中に入っているのは全部"ソロ"でダンジョンを潜った時のものなので個人物になるから俺がどうしようが自由だ。
「ないね」
俺はそう言う、実際心当たりがないから。
「フラック、俺が代わりに言う」
登場してきたのはジウ、このパーティーのリーダーだ。
ジウは他のパーティーの女性から人気があり、モテモテのイケメンだ。
「クロー、君では力不足だからだ、これからはSランクのダンジョンに潜ろうとしている、だからだ」
「そうか」
周りのことを気にしているから、そんなことを言っているのだ、本当は『邪魔だから』と言えば済む話を。
「んじゃ、世話になった」
俺は換金所に移動しようとすると…
「有金、置いて行きなさい」
エルザからそんなことを言われる。
「ほれ」
俺は小銭が入ったポーチをポトンと地面に適当に投げる。
そうして俺は振り向かずに換金所に向かう。
換金所に着くと見慣れた人がいた。
受付をしているリトウだ。リトウは俺を見かけると声をかけてくる。
「最悪だな」
「なにがだ?」
俺はリトウの受付口にいく。
「あいつらだよ、お前だけが個人としてのSランクなのにな」
リトウの言う通りで、ジウは個人としてはAランクなのだ、エルザ、フラックも同じAランクだ。
パーティーがSランクだと言われているが個人では違うということだ。
「はは、クローとしての最後の換金を頼む」
「了解、あ、そうだ、リゼミが上で待っているぞ」
「了解」
俺はリトウにマジックバックを渡す。
「なんでこんなにも溜めていたんだ…はぁ」
そんなマジックバックの中身を見たリトウがガクッとしている様子を横目に上に上がってとある部屋に入る。
「どもどもリゼミさーん」
「座ってちょうだい」
俺と違い、リゼミさんことリゼミールさんはどこか真剣そうだった。
俺が座ると、
「これがパーティー脱退の紙をよ」
机の上に脱退の紙が置かれる。
「本当にいいのね?ってもう書いてる!」
「別にあのパーティーに思い入れはないですから」
「そう、残念、でこれからは?」
「そうですね…この仮面は取ろうと思います」
だってこの仮面、変声と認識阻害があるから、誰が仮面をつけたか、わからないから便利だ。
「そう、他のパーティー『逆境』から招待状が来ているけど?」
Sランクパーティーの『逆境』構成員が多いことでも有名だ。しかし俺は、
「断っておいて下さい」
断ることにした。だって自由にしたいから。
プルルル
部屋に設置された電話がなる。
「どうやら、ここまでね」
「そうですね」
俺は立ち上がり、部屋を出ようとすると、
「本当のことは伝えないの?」
「それは個人情報なので」
そう、俺が個人でSランクだと知っているのはリトウとリゼミさんだけだ。
どうやら換金が終わったらしいのでリトウの元に向かうことにした。
「はい、マジックバックに入れておいた」
「サンキュー」
「今まで感謝も込めているから」
「ああ」
マジックバックの中身を見ると、
「え?こんなにも貰っていいの?」
驚いた、こんなにも貰えるんだ。
「おいおい、口が空いているぜ、あと当たり前だからな」
「そうか、じゃあありがとうございました」
「ああ、ご利用ありがとうございました」
俺は換金所から出ることにした。
「うーん」
俺はのびる、これからどうしようか?本当はなにも考えていないんだ。Sランクパーティーの逆境はブラックで有名なところなので断るに決まっている。
そうだ、俺は仮面を外した。これからだ。
とりあいず帰るか。
「ふぃー、帰宅」
別に転移魔法を使い帰ろうかと思ったがなんとなく歩きで帰ってきた。
テレビをつけると、
『Sランクパーティーの嵐の王のクローが正式に脱退しました』
というニュースがやっていた、俺はテレビを消した。
ソファに横たわる。
「はぁ」
どうせクローが自ら、力不足を自覚して脱退したってことになってるんだろうな。
ふとしてパソコンを開くことにした。
「やってるかな?」
Vダンを見ることにした。Vダン、Vでのダンジョンという意味で、Vがダンジョンを潜ったり昔のゲームをする他にも活動している。俺もそれを見守る一人の視聴者になっている。
「こんにちは、ノーヘル所属の二期生の海川白です、今回はFランクダンジョンに潜ってみようと思います」
海川白さんがFランクダンジョンの『スライムの滝』に潜っている。
海川白さんはダンジョンを歩いて接敵するまでコメント欄を見ている。
「今回はどこまで潜るか?うーん、3階層までかな、あ、」
海川白さんはなにか思い出したようで、
「実は三期生を募集することになっているんです、なので応募しようかなーって思う人は概要欄から飛べるようになっているから、三期生になったら私の後輩になれますよ?」
「まじでー?!」
まじか、驚いてしまった。
すぐに海川白さんのブラウザを残して概要欄から公式に飛ぶと、
「あった」
『ノーヘル三期生、募集中』
とかいてあり、さっそく応募してみよう。
タップして、応募するために名前などを書かないといけないらしいが、俺は途中で手を止めた。
「ダンジョンを潜ったことはありますか?はい、そしてランクは?ってまじか」
さすがにSランクって書くとありえないと一蹴されるだろう。ダンジョンを潜るためには探索者である証であるプレートが渡され、ランクが記入しているが高ランクになればサブ垢プレートを作れる。
俺もサブ垢プレートを作ったがそのプレートが本垢と勘違いされているからな。
「じゃあCランクでいいか」
そうして俺は応募を済まして海川白さんの配信を見ていた。
『俺も応募したぜ』
『同じく、白ちゃんの後輩になれるチャンスなんてここを逃してはないぞ』
俺と同じような人たちがコメントしていた。