068 第一仕合1/2
「帝国最強候補と名高いこの漢に挑戦するのは——最強のFランク冒険者ッ!!! 王国にて【聖火の守護者】の称号を賜る武闘祭参加者を屠り、堂々の出場だぁッ!!」
司会の女がアズレトを指差し、マイクに向かって叫ぶ。
「最底辺の下剋上ッ!! 《魔弾の射手》——アズレトぉぉぉッ!!!」
「やれやれ。味方陣営にその身内がいるってのによぉ」
紹介を受けながら対戦者——〝暴君〟カリグラの前にたったアズレトがハット帽のつばを撫でる。
「アズレトが……僕の兄貴を」
「……この仕合……どうなるかわからないな」
ベンチでルキウスとアルマが目を細める。メンカリナン王国にて、長きにわたってあらゆる脅威を退けてきた名門中の名門家ヘルシング。
ルキウスの兄であり、その強さは王都に住む者ならば誰もが知る。武闘祭の挑戦権を与えられるほどには大陸全土に名を知らしめた猛者だ。
そんな漢をうちのめし、挑戦権を奪った——並の強さではとうてい行えない。そもそもの話、勝てるという自負がなければ挑むことすら考えない。
ルキウスの強さに一眼置くアルマもそれを理解していた。実際のところ、世間に疎いアルマは見たことも聞いたこともない相手だが、ルキウスの強さは知っている。
そんな彼の兄であり、その強さを信頼していたからこそ——
「僕の兄貴は決して弱くはない。あのカリグラといい勝負だと思う。そんな兄貴から挑戦権を奪ったんだ……アズレト。ふざけたキャラだけど実力は……」
「ああ。思わぬところに素敵なヤツが紛れ込んでいたな」
二人の評価が改められ、件のアズレトは……
「——ひぃぃ、怖えッ! アンタもやべーが後ろの二人も怖ええええッ! 俺、これ終わったら敵討ちとかされねえよな?」
「……俺に聞いてどうする」
「ヘヘッ、それもそうだな。——んで、意気込みの程はどうよ? こう見えて俺ぁ、結構強いらしいぜ? 降参するなら今のうちにだな——」
「生憎だが、負け戦であろうと俺は戦うことを心情にしている」
低くしゃがれた声がアズレトの言葉を遮る。その声音からも、数えきれない修羅場を潜ってきたことをうかがわせた。
肉体に宿る傷痕の数よりも、カリグラという漢を前にするだけでその尋常ではない強さに圧倒される。
並の人間ならこの時点で腰を抜かしていた。その点でいえば、アズレトは合格だと言えるだろう。
「あっそ。まあいいや。どうせ勝つのは俺だし?」
先までの弱気な態度とは裏腹に、言葉は揺るぎない勝利を謳う。
対して、カリグラは両手を脱力させ自然に構える。
「来い」
「あいよ」
「獣神武闘祭第一仕合——はじめぇぇッ!!!!」
司会の腕が振り下ろされたタイミングで、アズレトの外套が揺らいだ。刹那、カリグラが何かを弾く。
「ハハッ、初見で弾くかよッ」
「飛び道具か」
弾いたものが観客席の壁を穿つ。しかしそれを確認する余裕はない。
次から次へと放たれるそれ——漆黒の魔弾がアズレトの外套の奥から放たれた。
「正解——俺ぁステゴロとか嫌いなんでね。手ぇ傷つくし? 女の子って意外と手をみるもんなんだぜ? 知らないなら教えてやる。女ってきれいな手の甲に萌えるんだぜ?」
「——フン、くだらん」
高速で射出される魔弾を両手で弾き、悠々と足を進めるカリグラにアズレトは目を見開く。
「おいおいおい、マジかおまえの腕……金剛石でできてんのか?」
ルキウスの兄ナンシー・ヘルシングの拳を一撃で粉砕した魔弾を、カリグラは幾重も弾き、あまつさえ歩み寄ってさえくる。
目で追えないことはないだろう。常人ではムリでも、カリグラやアルマ、ルキウスほどのレベルに達した人間なら目で捉えることはできる。だが、それを真っ向から弾いてみせる人間はいったい、どれほどいるだろうか。
「間合に入るぞ、アズレトとやら」
「いいねえ、おもしれえ」
笑い、魔弾の射出が止まる。
訝しげにアズレトを見遣るカリグラが、間合まであと一歩のところで停止した。
彼我の距離、三メートル。
この距離から踏み込めば、異様に長い手足をもつカリグラならアズレトを一撃で昏倒させられる。
だというのに、この男は——
「早撃ちってヤツだ。あれだよ、どっちが速えか勝負だ……みたいな」
「……舐めているのか、貴様は」
「はぁ!? 舐めてるわけねえだろバカかおまえ! ビビりまくりだわッ」
「………」
キレ出すアズレト。無表情でそれを見下ろすカリグラの構図。
傍目から見ても、カリグラの有利は揺るがないというのに、アズレトは一歩も退くことなくその場を動かない。
「たとえ、俺の攻撃より早く貴様の魔弾が俺に直撃したとして……俺は止まらぬぞ。喰らおうとも貴様を次の一撃で潰す。この距離だ、逃げることはかなわんぞ」
「ハハッ、バカかおまえ。ハンデだよ」
「ハンデ、だと?」
額に血管が浮かび上がる。
ハンデだと? この俺を相手に、ハンデだと?
久方ぶりに感じる屈辱だった。
「殺さぬよう加減してやるつもりだったが、前言撤回だ。次の一撃で殺す」
「おうおう、やってみろやオッサン」
あくまで飄々と、にっと歯を見せて笑うアズレト。相対するカリグラは、背中の筋肉を膨張させた。
あらゆる攻撃の要となる背筋。
背筋の筋量は、攻撃力に直結する。その筋力が今、歪に膨れ上がり闘気を放つ。
「———」
「——へへッ」
視線が交わる。互いの呼吸、心臓の鼓動、髪の毛一本の揺れさえ見逃さない。
この瞬間。ふたりは世界の中心だった。
静止した世界——時間が止まってしまったかのような静寂を引き寄せて、二人は極限の集中力を宿す。
誰かが生唾を飲み込み。
その凄まじい気配と集中力に、観客たちは一言も発することができず、手に汗を握る。
それはベンチにいるアルマたちも同様で——
「動くぞ」
ただ一人、例外であった自称魔王ロイ・エルシオンが愉悦をこぼした。
刹那——初速から音速を越えたカリグラの左拳がアズレトへ放たれ……
「ばぁんっ♡」
「———ッ!!?」
それよりも早く——アズレトの左足が鎌のように跳ね上がり、カリグラの頬を抉った。
まったく予想外の一撃、かつ熟練度の高い蹴力に脳を揺さぶられ……
「踊りな」
続いて、外套から抜かれた二挺拳銃が火を吹く。
黒塗りの魔銃。
乱射される漆黒の魔弾が、間を置くことなく頭部を叩きつける。
血が吹き出し、額をへこませ、鼻の骨を砕き——まだ止まらない。
「俺は油断しねえ。後が怖えからな。マジでここいらで眠っとけ——レスト・イン・ピース」
魔弾の形状が変わる。
その姿を、この場で確認できたのは十人にも満たない。
「——穿弾の磔刑」
「——ッ」
止まらぬ魔弾の暴威の最中、一際異質な魔弾がカリグラの頭部を弾いた。
螺旋状のように蠢く一発の魔弾。他の弾と比べ威力も殺傷力も桁違いのそれが、カリグラを撃って打ってうって撃ちまくり———
「ハハッ、獣神武闘祭・完———ってなッ」
地に仰臥するカリグラの巨体。頭部から撒き散らした血液が血溜まりを広げていく。
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「俺はまだ、四回の変身を残している……その意味がわかるな?勇者よ」〜幼女から美女へと変身する度に強くなるスキル『変性』を得た俺は、追放された後に魔王となる〜
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