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067 武闘祭開幕

「――皆様。お待たせしまたした」



 闘技場の中心地にて。

 派手な赤いドレスで着飾った女が、マイクを片手に叫ぶ。



「これより――――獣神武闘祭の開始を宣言しますッッ!!!!」



 瞬間、闘技場全体が揺れる。

 割れんばかりの大歓声と絶叫が、この広大な闘技場を轟かせた。


 

 約十万の人間で埋め尽くされた観客席。

 確か、仕合場から一番遠い客席で五百万ディラ。近いところで一千万。VIP席は目眩がするほど高額だった。


 それらが全て、埋まっている。

 この武闘祭が、どれほどに価値のあるものなのか。

 それを空白のない人の波が証明していた。



「せんぱぁぁぁぁぁいぃぃぃッ!!!」


「あーくん、頑張って」


「負けたら俺が仇とるんで安心してください!!!」



 嬉しいことに、出場者の身内は五名まで無料で、しかも最前席で見られるようになっている。

 なので選手控え室(ベンチ)からでもしっかり三人の様子を伺うことができた。



「マジかマジか、俺めっちゃ緊張してきた最後がいい最後! 俺緊張すると手元がやべーんだよ!」


「一番最後の方が緊張するンじゃないか? 下手な仕合はできねえぞ?」


「マジか! ならもう三番目で!」



 アズレトが早くも「やべー、やべー」と闘技場の雰囲気に呑まれかけていた。

 そこまで騒がれるとこちらも緊張してくるのだが……



「……一人、足りないな」


「あン? 小便か?」

 

「最初からいなかったわよ。まだ来てないみたいね」



 壁に寄りかかって静かに瞑想していたカティアが、瞼を開く。

 この場に来ていないのは、カティアの古巣でもある絶対悪の竜王(アジ・ダハーカ)の首領。

 名は、アエーシュマと言ったか。

 

 懸賞金十億を越えるS級犯罪者だ。

 


「ま、来てないなら後回しにして……なんなら、先に三勝もぎ取っちゃおうよ」



 足を組んで横長の椅子に腰掛けていたルキウスが、余裕たっぷりと口角を上げた。



「帝国側が先に選手を決めて、俺らがその後に決めるンだっけか?」


「そうそう。余裕たっぷりだよねえ。こっちは相手に合わせて選手をぶつけられるんだから。とは言っても、相手の情報なんて何一つ持ってないけど」


「ああ、俺もそうだ」



 滞在した二日間で、相手側にどんな武芸者がいるのか特定することは容易い。

 それに合わせて、戦闘スタイルを変えることだってできる。

 だが、あえて俺はしなかった。

 なぜなら、



「やっぱ楽しみは本番までに取っておかないとね。どんな野郎が出てくるのか、どんな拳を持ってるのか、身をもって味わいたいじゃん?」


「それに、どんな野郎が出てきたところで正面からぶっ倒してやればいいだけの話だしな」


「わかってるじゃん。さすがだねえ、アルマ」



 ニシシと笑う勇者に笑みを返す。

 つくづく、こいつとは話が合う。

 早くルキウスとも拳を交えたいところだが……。



「ところで、卿ら」



 と、それまで無言だった白色の魔王が口を開く。

 一人だけベンチの外に出て、余すことなく熱気と歓声を浴びていた仁王立ちの魔王が、緩み切った笑みを俺たちに向けた。

 


「この武闘祭の生い立ちを知っているかな?」


「生い立ち? いや、俺は……」



 視線を三人に投げかける。

 アズレトは打って変わり、横長の椅子に寝そべって瞳を瞑り始めた。

 胆力が強いのか、芯が細いのかよくわからないヤツだった。



「僕も知らないな。興味なかった。強いヤツ殴れればそれでいいと思ってたし」


「わたしもよ。強いヤツを切れるならそれでいいわ」



 揃いも揃って脳筋な発言に、しかし魔王は笑みを保ったまま、むしろ頼もしいとすら感じさせて語り始めた。

 


「古くは六千年前……二代目皇帝の座を争って行われたという御前仕合が起源だ。その名残りである仕合が昇華され、より強い者をさらに強く新生させる――即ち、時代と星に選ばれし超越せし者(エクストラ・ワン)を生み出すこと。それがこの武闘祭の目的よ」


超越せし者(エクストラ・ワン)……」



 俺の師匠ディゼルと、ギルドマスターであるエクセリーヌさん。

 そしてかの勇者アムルタートも、人の理を越え、星に認められた最強――超越せし者(エクストラ・ワン)だったと語られている。



「現存する超越せし者(エクストラ・ワン)は三名。これを、卿らはどう見る?」


「どう……ってのは、少ないか多いかってことか?」


「うむ。俺は少ないと思うが、卿ら勇者はどう感じる? 適正量だと思うか、少ないと見るか、多い方だと拳を握るか。個人的には、先にも言った通り少ないと思う。俺はもっと……それこそ国単位で最強がほしい」


「そこまで最強がいっぱいいると、最強っていう定義が崩れるぜ」



 唯一無二。天上天下に唯独り。故に、最強。

 ロイの言ったことが実現してしまうと、その最強という称号も価値が薄れてしまう。



「確かに卿の言うとおりだが、俺は取り戻したいのだよ。いいや、もう一度味わいたいのだ。かの戦乱荒れ狂う地獄の相貌を。最強を自負する最強たちが天すらも食い破らんと猛るあの地獄(パラダイス)を、俺はもう一度味わいたい」



 今にもよだれを垂らさんばかりにそう語り始めた魔王を見て、カティアとルキウスの二人と目があった。

 二人は、よくわからないと言いた気に俺を見た。

 俺だってよくわからんよ。




「――では、前置きは以上にして! 早速第一仕合を始めましょう!!

 まずは帝国側からの入場ですッ!! 獣神武闘祭――初陣を飾るのはこの漢だッ!!!」




 司会者の指さした方向。

 帝国側のベンチから歩いてくる大男を見て、俺は口角が釣り上がった。



 上着を脱ぎ捨て、その身に刻まれた無謬の傷跡(歴史)を晒す巨漢は、満を辞して闘技場中央に立つ。



「第一仕合からまさかのこの漢ッ!!? 帝国一の荒ぶる暴風雨が挑戦者を迎え討つッ!!!

 身長210センチ、体重205キロッ!!!



 ――〝暴君〟カリグラぁぁぁぁッッッ!!!!」



 比較的細身でありながらうちに内包された暴力的なまでの筋量。

 禍々しい闘志を振り撒き、その漢はこちらの入場を待つ。



「俺が行こう」



 一歩踏み出した俺を、ルキウスがいい笑顔で妨げた。



「いや、僕が行くよ」


「は?」


「なに?」



 笑顔で睨み合う俺たちへ、アズレトが呆れた様子で言った。



「おいおいおい……仲間割れか? ていうか物好きだな……俺ぁ絶対にいかねえぞ? 勝ち目ねえし」


「ふむ。ならジャンケンで決めようじゃないか」


「いいこと言ったわね、魔王さん」


「そうであろう? 文句なしの一回勝負。これで決めようじゃないか、卿らよ」



 魔王の提案に、俺とルキウスは渋々と頷いた。



「では、行くぞ!!」



 妙にテンションの高い魔王の掛け声により――――結果、



「……いや、うそーん」


「チッ」


「一番やる気ないヤツに……」


「残念ね……」


「い、いや、代わってくれても――」


「うむ。アズレトよ。行くがいい。皆が待っている」


「……ヘイヘイ」



 そして、アズレトが外套を羽織ったままベンチから外へ出た。



「仕方ねえ。んじゃま、いっちょ派手にやるかい――オッサン」


 




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