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065 **

「いよいよだな」


「……ええ」



 獣神武闘祭、当日。


 会場となる闘技場付近には、既に大勢の観客たちが押し寄せていた。



「あ、あれ……参加者の方じゃない?」


「ホントだ……すげえ迫力……歩いてるだけだってのに……足が震えてくる……ッ」



 必然と割れていく人波。

 帝国の人間だけでなく、あらゆる国の、民族の、異種の者たちから期待と羨望の込められた視線を受け取る。



 それはどうやら俺と、隣を歩くカティアだけでなく、



「な……なんか、俺たちまですごい目で見られてますね……」


「いいこと教えてあげる。ニートになると、見られてもいないのに人の目線を気にするのよ」


「体験したくない経験談デスね、それ」


「あなたもいずれそうなるわ。覚悟しておきなさい」


「予言と呪いはシャルの専売特許デスから!」



 後ろをついてくる三人にも熱のこもった視線が送られているようだ。



「それにしても、大きいですねえ……俺もこんな闘技場で戦ってみてえ」



 眼前に聳え立つ闘技場を見上げて、レイジがつぶやいた。

 確かに、ここで戦えるのかと想像するだけで武者振るいが襲ってくる。



 幾千、幾万の武芸者がここで戦うことを夢見て、折れてきた。

 その舞台に、今……俺たちが立とうとしていた。



「勝とうぜ、カティ。そンで、見せつけてやれ。おまえの剣を……例の三人に」



 参加者の一人にして、絶対悪の竜王(アジ・ダハーカ)の首領アエーシュマ。

 そしてカティアを拾い、育てた二人の剣士。

 カティアの目指す剣そのもの。

 そして、越えるべき背中。



「おまえは強くなったンだと、刃の鋭さを魅せつけてやれ」



 昨夜、カティアから全てを聞いた。

 


 今では悪鬼羅刹の最凶集団とまで呼ばれている絶対悪の竜王(アジ・ダハーカ)

 そのツートップに拾われ、育てられたカティアは、親代わりに育てた二人の意向によって十五歳の頃、メラクで生活することを強要された。



 カティアは素質がある。しかし、その才能を、盗賊として使ってほしくはない。

 そんな盗賊らしからぬ温情を受け、カティアは彼らと決別した。



 けれど——



「無論、言われるまでもないわ。負ける気なんてないし、想像もしていない」



 カティアは、それを割り切れるほど、大人びてはいなかった。



 自分より強いヤツがいることを許容できない——彼女が強くなるための理由は、それだけではなかった。


 理由——それは、誰の手でもない己が手で絶対悪の竜王(アジ・ダハーカ)を壊滅させること。


 そして、己を救い、育ててくれた二人と一緒に暮らすこと。恩に報いること。

 それが求められていないものだとしても。

 それをゴリ押しできるほどの強さを、カティアは求めていたのだ。



 幼いながらに負った傷。

 それを埋めるには、俺だけでは足りない。



「ここで証明してみせる。わたしの剣を——わたし自身を」


「その意気だ」


「アルマ。あなたも、出し惜しみなんてするんじゃあないわよ。わたしの婿に相応しい相手じゃあないと、あの人たちも納得しない」


「納得するさ。俺、最強だから」



 そして、立ち止まる。

 闘技場入り口前。

 


 そこで待ち伏せるかのように立つ面々を見ながら、俺は笑みを浮かべた。



「誰にも負ける気がしねえ。きょうの俺は強いぜ」



「——よく言った。その啖呵、気に入ったぞ」



 俺の背後——俺とカティアの間を割って通ったその男は、歪なまでに口角を上げて手を広げた。



「うむ。本日も晴天なり! この俺が出陣するに相応しい門出だ。——なあ、勇者よ。そうは思わんか?」


「———こいつ」



 なんだ……こいつ。

 何も……感じない。



 目の前で、仰々しく手を開いて晴天を見やり、深呼吸するこの男。

 戦衣を塩の純白で染め上げ、全身のシルエットを覆う外套を大きく靡かせたそいつは、俺へ流し目を送った。



「———」



 何も感じない。感じられない。



 何も感じない、はずなんてなかった。

 そこらの一般人ですら、何かしらを感じる。

 それは匂いであったり、音であったり、視線であったり、気配であったり。

 武芸者ならば、己が強さを示す闘気を感じる。

 巨大な幻影を視ることがある。



 だが。

 だが。



 こいつからは、その一切を感じ取ることができない。

 何者にも染まらぬ白。

 気配を隠してるとか抑えているとか、そんなチャチなもんではない。

 もっと異質な——言葉では説明できないような、奇妙さ。



「どうした? 顔色が悪いぞ、勇者」


「……。俺は、勇者じゃあないぜ?」


「何を言う。勇ましい者と書いて勇者。なれば、ここに集った諸君すべてが勇者であろう。何も、肩書きや宿命だけではあるまい。(けい)も、彼女も、そこらで様子を伺っている面々も皆、すべからず愛おしい()()()()()()()


「おまえ……何者だ?」



 問いかける。

 この得体の知れない男が、何なのか。

 


 男は、



「うむ。卿は同胞だ。本来なら名乗るようなことはせんのだがな」



 おおきな外套をひるがえし、俺と向き直ったそいつは、気障ったらしく、しかし妙に計算尽くされた立ち振る舞いをもって、笑みで、視線で——魂で、名乗る。




「ロイ・エルシオン——俗に、()()と呼ばれる男だよ」




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