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022 勧誘②

 次の日――



「ここがあの魔術学園……部外者が入ってもいいのかしら?」


「マズイな。入った瞬間に怖い先輩が飛んでくる」


「先輩……? 教師じゃなくって?」


「三年で卒業できなかった四年生の先輩たちが警備とかそういうのを任せられるんだよ。先生方も暇じゃないからな。単位も引き継がれるし、足りなかった分だけ補充すればあとは暇なんだよ」


「へ、へえ……」



 王城にも匹敵する荘厳な校門を見上げて、カティアがぎこちなく口角を上げた。



「ちなみに、これから会う予定の後輩も四年生だ」


「単位が足りなくて卒業できなかったの?」


「ああ。俺なんかよりも優秀なヤツなんだけど、問題起こして一年停学になってたんだ」


「問題……?」


「貴族令嬢をボコった挙句、うちのクラスメイト全員を半殺しにしたんだ。なんとか退学は免れたけど、優秀なモンだから停学でおさまったンだよ」


「いいの、そんな子をこれからパーティに迎えて……」


「根はいいヤツなんだよ。ていうか、黙ってたらふつうに良い子でとびっきり優秀な回復術師だ」


「待って、()()()()()()()()()()()()()()()()()……?」


「俺もびっくりだ」



 頬を引き攣らせたカティアをひとまず置いておいて、俺は懐からハンカチを取り出した。



「それは……?」


「使ってから一年は洗ってないハンカチだ」


「汚い」


「でも、これがいいんだ」


「……」



 とてつもなく嫌悪感を表情に滲ませたカティアが三歩俺から身を引いた。



「違うって、べつにこれを普段から使ってるわけじゃないし、できるなら俺だってこれを使うのは嫌なんだ」


「何に使うのよ? まさかそれを召喚の媒体にするっていうんじゃないでしょうね? 付与魔術師のくせに」


「最後のは余計だが、まあこれが媒体になる」


「……どういうこと?」


「まあ、見てろって。あと……あまり引いてやるなよ? 案外、繊細なんだから」



 言って、俺はハンカチを宙に浮かせた。

 ひらひらと舞うハンカチが、俺の背後から吹いた風に攫われていく。



 羽のように揺れ、形を変えながら風に飛ばされていき、校門の向こう側へ――




「――お久しぶりデス、先輩。一年振りデスねっ」




 スッと風に舞うハンカチを摘んで、何事もなかったかのようにそれを懐にしまった少女。

 音もなく、気配もない。

 校門の向こう側に現れたのは、魔術学園の制服に身を包んだ蒼天の髪(コバルトブルー)の少女。




「また先輩が会いにきてくれてホントにうれしいデスっ! シャル、ずっと先輩に会いたかったデスっ! もぅそんなにかっこよくなられて、抑えていた色欲が今にも爆発してしまいそうデスっ!」




 小学生と見紛う幼い容姿で、華奢な体を抱いてくねくねしながら妖艶と視線をくねらせる彼女の名は、シャルル・ココ。



 学年内で、教師陣含め回復魔術なら並び立つものがいないほどの天才術師で、現四年生。

 多少おかしな性癖を併せ持っているが、その実力は折り紙付きだ。



「先輩っ! 先輩っ! かっこいいデスね、先輩っ! シャルのこと迎えに来てくれたんデスね先輩っ!」


「あ、アルマ……彼女が、その例の……?」


「シャルル・ココだ。――久しぶりだな、シャル。元気にしてたか?」


「――はいっ! デスっ!」



 校門を飛び越えて、今にも抱きついてきそうな勢いでダッシュし――きっちり二メートル手前で止まったシャルが目を輝かせて俺を見上げる。



「先輩っ! もっとっ! デスっ! もっとお顔をしっかりとっ! みせてっ! デスっ!」


「ちょっと変わったヤツだけど、とても優秀だからおまえの御眼鏡に適うと思うぞ」


「あなたにベタ惚れじゃない……」


「いや、たぶん兄に甘える妹的なアレだ。兄妹いないからわからンけど」



 あぁ~んと、腕を必死に伸ばして俺に触れようとしてくるシャルルを、怪訝そうに見遣るカティア。

 初対面あるあるなので、そこはもう慣れてもらうしかない。



「シャル、授業はいいのか?」


「はいっ! デスっ! もう全ての単位をとってるので、これからは先輩と一緒にいられます! デスっ!」


「おお、偉いな。ご褒美にチョコをやろう」


「わぁ~い! デスっ! シャル、チョコ大好きデスっ!」



 アイテムボックスから取り出した板チョコを投げて渡す。

 シャルルはそれをしっかりと受け取って、懐にしまった。



「それよりもデスっ! 先輩、今までどこに行ってたんデスかっ!? シャル、王国中を探し回って先輩のこと探してたんデスよっ!?」


「ああ、ちょっと色々あってな」


「先輩がクソパーティに追放されたって聞いて、シャルはいてもたってもいられなくなって……デス」


「ごめんな。心配かけたみたいだ」


「いいのデス! こうして会えたんデスから……ふふ、シャル……あのゴミクズパーティに呪いをかけたんデス。弱体化から運勢操作まで、色々やってやったんデスよっ!」


「そ……そうか。シャルの呪いは結構効くからな……」


「そうなのデスっ! ざまあみろデスっ!」



 もしかしたら、勇者パーティがあそこまで落ちぶれたのって、半分はシャルルのせいなのかもしれない。



「この子……回復術師なのよね? なに、呪いって」


「先祖に呪術師がいるらしくって、夢で色々教えてくれたんだってさ」


「ふ……ふぅん……」



 目を細めて、カティアがシャルルのちいさな肢体を見下ろした。

 シャルルは、にっこりと笑顔のまま、カティアに視線を向ける。



「先輩? このお方は……? デス」


「ああ、紹介するよ。〝斬撃公(ヘル・クォーツ)〟って聞いたことあるだろ? その異名を冠す剣士で、俺の相棒のカティア・ルイだ」


「カティア。よろしく」


「……ふーん。デス。先輩の相棒…………ふーん……デス」



 きらきら輝いていた目のハイライトが、一瞬暗くなった気がした。

 


「よろしくお願いします。デス。シャルルっていいます。デス」


「ええ。よろしく、シャルル」


「……」


「……」


 

 ……なんだろう。互いにメンチを切っているように見えなくもないが……険悪な雰囲気だ。

 


「と、とりあえず、立ち話もアレだし、そこの喫茶店にでも行かないか? カフェオレ奢るぞ、シャル」


「――ホントデスかっ!? シャル、カフェオレ大好きデスっ!」



 カティアから視線を外して、俺に向き直ったシャルルが全身で喜びを表現した。

 


「……ふん」



 シャルルとは正反対に、無愛想に鼻を鳴らしたカティアが腕を組んだ。


「おもしろかった!」


「続きが気になる!」


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