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013 友達

「――副団長サマに目つけられた冒険者くんかわいそうだよねー」



 ふと、そんな声が聞こえてきて、わたしは足を止めた。

 曲がり角から足音が三つ。

 声を抑えることもなく、いやそもそも聞こえるように言っているのかもしれない。

 三人の女子が、黄色い声で会話を交わす。



「あの新人くん? あー見たみた、めっちゃゴツいよねえ。筋肉ヤバいって。しかもちょーイケメン」


「でも女の趣味悪くない? あの副団長サマとデキてるって噂じゃん」


「なんかー、副団長サマが入り浸ってるらしいよ? あーいうのがタイプっぽい」


「えー、まじ? 団長の愛人のくせに生意気ぃ。あたしちょーその子タイプなのにぃ」



 また、これか。

 いつものいびり。



 だけど、今回はわたしだけでなく、アルマの名前も出ていた。



「え、待って私も狙ってるんだけど」


「え、無理。あげなーい」


「ウケる、彼女面はやっ」


「でもさ、彼女が団長のペットって知ったら秒で別れるんじゃね?」


「じゃあ寝盗っちゃう?」


「いいね、あたしらでシェアしちゃお」



「―――」



 どれも事実無根の噂だ。

 わたしがどんなふうに言われようとも、思われようとも構わない。

 だから、今回も普通に、そんな話を堂々としている女たちの前に飛び出てやろうとしたけれど……。



「アルマくんってどんな抱き方してくれるんだろー?」


「見た目通り激しそう」


「でも意外と繊細かもよー?」


「じゃ、さっそく寝盗りにいっちゃうー?」



「―――だめ」



 自然と、ちいさく声が漏れていた。

 自分でもわからない。

 アルマはただの友達だ。

 ……いや、友達だからこそ、危険な目には合わせたくない。

 そう思うのが、普通だ。

 そう、普通。



 アルマが悪い女に捕まってしまう――そんなの、だめ。



 嫌な想像をして、胸がちくりと痛んだ。

 


「アルマを、守らなくちゃ」



 踵を返して、刹那——わたしは額を打った。

 後ろに誰か立っていたらしい。

 慌てて顔を上げると、そこには金髪の優男が立っていた。

 


「――やあ、カティ。こんなところで立ち聞きかい?」


「……団長。なぜここに?」


「なぜって、ここは僕たち《光の騎行(フォルサリア)》の拠点だからね。団長の僕がいてもおかしくはないだろう?」



 言って、柔らかく微笑む男。

 わたしの背後で、足音が三つ立ち止まった。



「——げ」


「廊下で逢引きですかー? だんちょー」


「燃えてますねー、アツアツぅ」


「おいおい、また変なうわさ鵜呑みにして。僕とカティはそんな関係じゃないよ。ね?」


「はい」


「説得力なーい」


「いーじゃんいーじゃん、だんちょー今さらすぎぃ」


「ぶっちゃけデキてるっしょ?」



 囃し立てる三人に、団長オルヴィアンシは露骨に困惑顔を作り上げた。



「そこまで言われたら、仕方ない。いっそのこと僕たち、付き合っちゃう?」


「それもサイテー、寝てきた女の子が嫉妬で怒っちゃいますよー?」


「それあんたじゃん」


「あんたもね」


「えー、あたしもおこー!」


「ははは、まあそれはそれとして。きみたちも廊下で悪口を言うのは控えるように。本人に聞かれたら気まずいよ」


「「「——はぁい♡」」」



 そして、キャピキャピとわたし達の横を通り過ぎていく三人。

 残されたわたしも彼女たちの後を追おうとして、



「待つんだ、カティ。どこにいくの?」


「……用事がありまして」


()()あの男のもとかい?」


「関係ありますか?」


「あるよ、そりゃ。僕のかわいい団員なんだから」


「……」



 掴まれた腕が離され、そのままわたしの頬に伸びる。

 ほぼ反射でその指を叩いて、一歩後退る。



「触らないでください。いつも言っているでしょう」


「んー、ごめん。でも僕の気持ちにも気付いてよ、いい加減」


「……失礼します」


「だから待ってよ。——カティ、僕はね……お願いしたんだ。アルマくんを勧誘してこいって。それを成し遂げられなかったのはまあ仕方がない。強制はできないからね」


「……何が言いたいんですか?」


「もう彼に会う必要はないって言いたいんだ」



 柔和な笑顔に紛れて、視線が鋭く尖る。

 笑顔の仮面に隠れた独占欲のようなモノが、酷く気持ち悪かった。



「……あなたには関係ありません。わたしと彼は、友達なんです。友達と会うのに理由は必要ありません」


「男女の友情が本当に成立すると思うのかい?」


「それも、あなたには関係ありません」


「認めたらどうだい? 彼のことがす――」


「――黙って」



 団長の表情が固まる。

 その隙に、わたしは彼の横を通り過ぎた。



 嘆息とともに注がれる視線に寒気を感じながら、わたしは拠点を後にした。




 



「――ふぅ。めっちゃ食った。疲労に(しみ)みるぜ……」



 筋トレ同好会の昼食会を終えた俺は、筋肉が喜んでいるのを感じながら外の空気を吸う。

 その横で、暑苦しいメガネが何やら挙動不審に蠢いた。



「へ、ヘイ、アルマ! さっきからあのガールがキミのことをずっと見つめているぜ! もももしかして、もしかしなくともキミの僧帽筋に一目惚れしているんじゃ?!」



 最近知り合った筋トレ仲間のジョニーが、メガネ越しに目をキラキラさせて件の少女を指差した。



「へい、ジョニー。残念だがあれは非筋肉主義の天才スペック女だ。筋肉には微塵も興味なんてないどころか、筋トレにかける時間を無駄だと思ってるタイプの女だ。——ダイエット? 知らんよ働けとケツにつま先ぶっ込んでくるタイプの女だ。気をつけろ」


「な、なんだって!? そんな女子が現実にいるなんて……僕の辞書にそんな女子はいないぞッ」



 懐から薄いメモ帳の中間ページを開きつつ、メガネを押し上げるジョニー。買ったばかりのメモ帳なのか、きれいな空白が並んでいた。



「しかし、ではあの美少女はいったいキミのどこを見つめて……まさか、顔? それだとしたら失笑ものだね」


「俺を馬鹿にしたのかあいつを馬鹿にしたのか明確にしてくれ。前者なら殴るし、後者なら蹴る」


「そんなことよりもアルマ、彼女が近づいてくるぜ! ――っと、僕はこれからB級グルメ大会に出場予定だからね。それじゃ! おつかれ!」


 

 話を逸らして、颯爽と立ち去っていくジョニー。

 昼食を食べたばかりだと言うのに、これからB級グルメ大会かよ。

 俺を越える胃袋おばけだ。



「――アルマ。何か、わたしにたいして失礼なことを言っていなかった?」


「いや、何も。それよりどうした? 待ち伏せなんて珍しい」


「ちょっと、あなたが心配で」


「心配?」


「……まあいいわ。ちょっと付き合いなさい」


「お、おう」



 なんか、今日はやけに機嫌が悪いなと思いつつ、俺はカティアの後をついて行った。



「おもしろかった!」


「続きが気になる!」


「早く読みたい!」


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