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第4話 事件

 結局、その日リーンハルトが再度イーリスの元を訪ねてくることはなかった。


(はあ。それでも、やっぱりパートナーはつとめないといけないのかあ……)


 いくら王の気持ちがもう陽菜に移っているとはいえ、まだ公式には自分が王妃だ。


 だから、イーリスは飾りの少ない空色のドレスを選ぶと、今日行われるパーティの会場へと歩いて行った。


 身につけているドレスは、袖と襟元にこそ精緻な白いレースがついているが、全体的に見れば派手な刺繍がされているわけでもなく、現代的なロングのドレスに近い。


(だって、あんなごてごてしたドレスを着て、動くの大変なんだもの!)


 イーリスの感覚からすれば、この服も十分に華やかなものなのだが、それでも貴族達には、王妃様は慎ましいと言われるから、人の見方など勝手なものだ。


(ここに来るまでに、また国務大臣の副官に捕まって、少し遅くなってしまったけれど……)


 しかし、まだ開始時間には間に合うはずだ。


「思うに、歴代聖女って、絶対にこの知識をあてにされたんでしょうねえ……」


 こちらとは違う別の世界の、少し進んだ考え。聖女の正体には、思わず溜息が出てしまうが、向かうホールからは、華やかな音楽が聞こえてくる。今日は、リーンハルトの従兄弟が同盟国の乱を無事に平定して、都に帰ってきたことを祝うパーティだ。


 肝心の従兄弟殿とは、たまにしか顔を合わせたことはないが、幼い頃からリーンハルトと仲がよかったのは覚えている。


(だから、パートナーを務めるのは当たり前なんだけれど……)


 緋色の絨毯が敷かれた階段の上で待つリーンハルトの姿が目に入り、思わず足が止まってしまう。


「あ……」


 こちらに気がついたのだろう。リーンハルトもイーリスを見ると、迷うように声をもらした。


(さすがに、浮気をしたのがばれた直後じゃあ顔も会わせづらいわよねー)


 とは思うが、それならばそれを浮気相手に暴露されたこっちの方が、余程どんな顔をしたらよいのかわからない。


「あの、な……今朝のことなんだが」


 ためらいながら口に出す言葉に、よりによって今それを切り出すのかと頬が引きつってきそうになる。


「陛下!」


 けれど、イーリスがリーンハルトの元までもう少しで近づけると思った瞬間、後ろから駆けてくる声が聞こえた。そして、どんとイーリスにぶつかる。


「待ってください! 私、今夜のパートナーがいないんです! だから、ぜひ陛下にパートナーになっていただきたくて」


(え?)


 さすがに聞いた言葉に耳を疑ってしまう。


「お待ちなさい! いくらなんでも、こんな場で王妃を差し置いてパートナーだなんて……!」


 いくらリーンハルトの気持ちが彼女にあるからといっても、それはあまりにひどすぎる。


 だから、 手を伸ばして腕を掴もうとしたときだった。


 リーンハルトへと駆け寄っていこうとした彼女の体が、イーリスの指が触れるのと同時にぐらりと傾き、足がさしかかっていた階段へと投げ出されていくではないか。


「陽菜!」


 慌てたリーンハルトが、陽菜の手を掴もうとするが間に合わない。


 そのまま彼女の足は、階段を滑り落ち、緋色の絨毯を凄まじい音をあげて、転がり落ちていく。


 五段ぐらい落ちただろうか。だだだだたと滑り落ちる音に、貴族達が一斉に大広間に続く階段を見上げた。妙やかな音楽を奏でていた楽士達ですら、弦を引くのを止めて、こちらを振り返っている。


「陽菜!」


 慌てて階段を駆け下りるリーンハルトの声だけが、大広間の静寂に響く。


「しっかりしろ! すぐに医者を呼んでやるから」


 けれど、リーンハルトが差し出した手に、俯いていた陽菜は痛そうに縋りながら体を持ち上げていく。


「ひどい……どうして、こんな」


 そして、きっと階段の上にいるイーリスを見上げた。


「あんまりです! イーリス様! 私が陛下と親しいからって突き飛ばすなんて……!」


(え? 私!?)

 

 なにを言いだすのか――――。


 しかし、突然の事態に呆然と見下ろしているイーリスの前で、座り込んでいる新しい聖女と彼女を抱く王。そしてそれを見守る貴族達のざわめきはひどく大きくなっていった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] こら陽菜ちゃんー。自作自演でしょうが。
[一言] あらすじ回収まで、この勢いでお願いします…! そこまでは、、 何卒、なにとぞ!! マッハで駆け抜けていただきたく…!
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