第135話 瞬く希望③
なにが起こっているのか――。
今の今まで、イーリスとリーンハルトは、互いの無事を確認して微笑み合っていたはずだ。それなのに、通信機からは、ただ暴れるような音だけが響いてくる。
「大丈夫!?」
イーリスが思わず叫んだが、相変わらず音だけが光の中から響いてくる。
普通ではない音が、リーンハルトに今起こっている危機を伝えているかのようだ。
やがて、ふっとリーンハルトの姿が、光の中に戻った。
見れば、リーンハルトは首に巻き付いた鉄の鎖の端に、いつも持っている対暗殺者用の短剣を差しこんで、その一部を崩れさせている。
「リーンハルト……!」
やっと映った姿に、泣きたくなるぐらいホッとしてしまう。
やがて、短剣の腐食させる効果が効いたのだろう、キンと音がして、鎖は刃物の傷口からぽろぽろと落ち、リーンハルトの喉を外れた。
「リーンハルト……!」
よかった、無事だ。鎖は、まだ少し喉に残って絡まったままとなっているが、目の前にいるリーンハルトは今も立って動いている。
その姿が、廊下に向かって叫んだ。
「天井裏に刺客が潜んでいた。すぐに後を追え!」
その言葉に、騎士たちが急いで走っていく音がする。扉のところで、「陛下ご無事ですか?」と声をかけているのも聞こえる。
それにリーンハルトは通信機を持って移動し、一度だけ扉を細く開けて、安否を確認させた。そして、すぐに閉めて、扉の陰に隠していた通信機のイーリスへと微笑む。
リーンハルトが、扉を細くしか開けなかったのは、イーリスのことを見られないためだったのだろう。
その姿に、声をかける。
「リーンハルト……大丈夫だった……?」
「ああ」
まるで刺客が来るのを予想していたと言わんばかりに、落ち着いた表情をしている。そのいつもどおりの姿に、涙がぼろぼろと溢れてきた。
「よかったわ……。本当に……あなたが無事で、よかった……」
「イーリス……」
リーンハルトが、泣くイーリスを愛おしくて仕方がないというように見つめている。
「すまん、天井裏に刺客がいたようだ。相手の姿を隠すために、天井の明かりの陰から狙ったみたいだから、角度的に君の姿までは見えてはいないと思うが」
こんな事態でも、捕らわれているイーリスの身のほうを心配してくれる。それを感じて、涙がさらにこぼれてきた。
「ううん、私よりリーンハルトよ。よかった……あなたが死ななくて……」
「イーリス……」
泣き崩れている顔さえもが、愛おしくて仕方がないというように見つめてくる。
「大丈夫だ。俺は簡単には殺されない」
「うん……」
「そして、必ず君を助け出すよ。約束する。絶対に取り返してみせるから」
映っているイーリスの映像に、こつんと額を寄せるように、顔を重ねてくる。
だから、イーリスもそのリーンハルトの姿に、そっと額を寄せた。
「ええ、私も必ずリエンラインに帰るつもりよ」
――どんなことがあっても、あなたの側に。
そう短い言葉で告げれば、映像の中のリーンハルトの顔が、すごく嬉しそうになっていく。
「必ず、君を助ける。だから、くれぐれもジールフィリッド王には、気をつけてくれ」
「ええ」
そう話す間にも、装置の魔力が切れたのだろう。だんだんとリーンハルトの姿が薄くなり、やがて光の中へと消え始めた。その姿が、最後にイーリスにもう一度近づいてくる。そして、掠めるように映像が唇へ触れた。
映像が切れる前のほんの一瞬――重なったキスの向こうで、お互いが優しく微笑んだ。




