第132話 偽物との対決③
二枚の紙が、イーリスの姿をした者の前に並べられる。
「あ……」
ほかの字体は、たしかに似ている。だが、一度も見たことのなかった綴りを、まさかリーンハルトが今持っているとは思わなかったのだろう。
ほかの字とは違い、少しだけ恥ずかしそうに始まり、最後は心でえいっと思って書き上げたかのように文字の終わりが撥ねている。それに、ここの単語と単語を綴って書くときのくせが明らかに違うのだ。
「これは……」
本物のイーリスが書いた手紙をじっと見ていた偽物が、強張ったような顔で眼差しを上げた。
「知っているはずがないな、イーリスが俺に書いてくれた恋文だ」
本人ならば、書いてほしいと頼んだからでしょうと真っ赤な顔で言いそうなところだが、今目の前にいる偽物は、愕然とした色を瞳に浮かべている。
あまりにも驚きすぎて、イーリスの顔を装うことも忘れたのだろう。
「これに書かれた筆跡の違い――それは、お前がイーリスの偽物だということだ!」
「あ……」
声を失ったように、前で偽物のイーリスが固まっている。
「言え。誰の差し金で、イーリスになりかわった。そして、今、本物のイーリスがいるのはどこだ!?」
「知らないわ! 私が本物のイーリスよ!」
その焦る言葉に、くっと唇の端をつり上げる。
「これだけ明確な証拠を前にしても、まだその嘘を貫こうとするとは――」
素直に白状しないだろうとは思ってはいたが、まだ姿を偽ろうとする姿に、深い怒りがこみ上げてくる。
「いいか、お前がどういう理由で、俺とイーリスを別れさせようとしているのかは知らん! だが、俺は絶対にイーリスを手放したりはしない!」
そうだ、と内心で呟く。今も昔も――自分はイーリスが好きで、傷つけてしまったのもそれ故だった。
だから、イーリスが自分を好きだと知った瞬間は嬉しかったし、愛していると手紙に書いてくれた時には天に舞い上がるような心地がした。
彼女と一生側にいられるのならばどんなことでもする――それは、イーリスが自分を好きだとわかった時にした決意だ。
だから、決然とそれを口にすれば、偽物のイーリスの顔が悔しげに歪んだ。
「俺とイーリスを別れさせるつもりならば、お前が誰であろうと許さん! 相応の処罰を覚悟するのだな」
「処罰――」
まさかこんなに早くばれるとは思わなかったという顔だ。強く眉を寄せている姿に、扉の外にいた騎士たちを呼ぶ。
全員、この街に着くまでにウィルソンが、リーンハルトの誕生日に彼らが騎士団に贈るために持ち寄った花を尋ねて、本人だと確認した者たちばかりだ。そのあとは、必ず三人一組で行動させ、互いに狙われたりしないようにさせていた。そのため信頼できる者たちに指示を出す。
「その女を連れていけ。その女はイーリスに化けていた偽物だ。秘密裡に監禁して尋問し、誰からの指示か吐かせろ」
「はっ」
すぐに騎士たちが頭を下げる。
偽物が叫んでいるが、騎士たちはその頭に布をかけて、人目につかないようにして連れていく。
そして、偽物の姿が扉を出ていって、パタンと音がした直後、急いでリーンハルトは剣の後ろに隠していた通信装置を取り出した。
急いでそれを持ち上げる。
(先ほど、確かに光っていた)
だとしたら、今は通信を求める光は消えているが、まだイーリスが装置の近くにいる可能性は高い。
(どうか、繋がってくれ――!)
本物のイーリスのところに――。
願いをこめて、リーンハルトは、急いで通信を求めるための鳥の羽を押した。




