表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

201/202

第127話 捕らえられた城で①

 ハッとイーリスは目を覚ました。


 頭を上げようとするが、目の前の焦点がまだどこかうまく合わない。


「うっ……」


「お目覚めかな」


 だが、近くで聞こえた声に、ガバッと体を起こした。


「シールフィリッド王!」


 見れば自分が寝かせられている寝台の横には、いつの間にかジールフィリッド王が座り、すぐ側からイーリスの姿を見下ろしているではないか。


「どうして――」


 言いかけて、なにが起こったのかを思い出した。


(そうだわ、私はマーリンに襲われて……)


 首を絞められたうえに手刀で殴られて意識を失ったのだった。


(だとしたら、ここは――)


 急いで周囲を見回す。ガラスが二重になった窓から見えるのは、黄褐色の塔と建物だ。よく見れば、左手の奥のほうには常緑樹に囲まれた池が、小さく見える。その側にあるのは、赤茶色の建物だ。


「まさか、ここは――」


 トロメンの城!?


「まさか、私をトロメンに連れ戻したの!?」


 外の光景から今いる場所を悟り驚くと、目の前ではシールフィリッド王が、ふっと笑う。


「俺の求婚を受け入れてくれれば、こんなイーリス姫を驚かせるようなことをしなくてもすんだというのに――」


「あなたが、マーリンと手を組んで、私を攫わせたのね!?」


 咄嗟に叫ぶと、シールフィリッド王はさらに面白そうに顔を変化させる。


「手を組んだとは心外だ。攫わせたのは、事実だが――。元からあのマーリンとかいう女は、俺の手の内で踊る駒にすぎん」


「なっ……!」


「婚約者になるかもしれなかった相手に恋着し、それを奪った者への嫉妬に身を焦がしていた。――だから、イーリス姫を手に入れるために、ちょっと人をやって側で唆せば、見事に踊ってくれたのよ」


 では、最初からガルデン王が、背後からマーリンたちを操っていたのだ。ポルネット大臣の恨みを利用して、やり直そうとしているイーリスとリーンハルトを引き裂くために。


 ぐっと手を握り締める。


「私を今すぐ帰しなさい。私はリエンライン王リーンハルトと将来を誓った身です」


 言いながら、目で周囲を素早く見回す。部屋にある扉は一つだけだ。今窓から見えた高さだと、おそらくここは三階以上。だとしたら、窓から飛び下りるのは、無理だろう。


 だが、扉で一瞬止まったイーリスの眼差しに、考えていることがわかったのか。


「おっと」


 逃げ道を塞ぐようにベッドの上に手を突かれる。


 シーツの沈んだベッドが、微かに軋んだ音をあげる。その音が、イーリスの気持ちを追い詰めていく。


「生憎だが、それはできん。イーリス姫も逃げようなどとは考えないことだ」


 緑の瞳が、間近から酷薄にイーリスを見つめる。


「そうでないと、国境の砦にいるフレデリング王子がどうなるか――。離れているとはいえガルデンだ。狼煙一つで、王子の命などどうにでもできる」


「そんなこと、リーンハルトが許さないわ!」


 兄フレデリングは、まだリーンハルトやリエンライン軍と一緒にいるはずだ。だけど、今の状況がわからない。イーリスが気を失ってから、ここに連れ戻されるまでの間になにがあったのか――。


「そのリーンハルト王だが、リエンラインに戻ったみたいだがな」


「なっ……」


「国境の街で爆発があったのだ。自国の民を心配して急いで戻るのは、実に国王らしい立派な態度だと思うが」


(これのためだったのだわ……)


 国境の街で爆発が起こったのは。あんな爆発を近くで見れば、気にならないはずがない。民や街の様子を知るために、急いで国に戻るだろう。


(だから、あのタイミングで爆発が起こったのよ……)


 そして、その光景を見たどさくさの中で、マーリンがイーリスになりかわったのだ。


(だとしたら、今のリーンハルトの側にいるのは……)


 ちりっと胸が焼けつく。


 ――だけど、と自分の上から覆い被さるように見つめるジールフィリッド王の緑色の瞳を睨み返す。


「だけど、リーンハルトが、約束した三日の期限を過ぎても、兄を解放されなければ、怒らないはずがないわ!」


 そうだ、リーンハルトならばきっと怒るだろう。書面で抗議するだけではなく、向こうの状況が収まり次第戻ってくるかもしれない。


 だったら、まだイーリスがリーンハルトの側に戻ることもできるはずだ。だから、負けないように見つめ返しながら言えば、ジールフィリッド王の唇が、ふっと笑う。


「ならば、その三日の間にリーンハルト王を殺してしまえば、問題はあるまい?」


「なっ……!」


 あまりのことに驚きで言葉が続かない。


 リーンハルトを殺す? その言葉に、頭の中がぐらぐらとしてくる。


 しかし、さらにガルデン王はイーリスの前へと近づいてくる。


「これで帰れる希望がなくなったことはわかっただろう。ほかの家族だけは、ガルデンから出ていくのを見逃してやる。だから、知っていることを教えろ」


 そう言うと、ぐいっとイーリスの顎を手で掴んでくる。そして、最接近した距離で覗き込んだ。


「ミュラー神が、聖女召喚で使っているという時空を越える方法を」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
知りたいのはそっち? なんで聖女召喚の方法なの? また陽菜ちゃんみたいな子を作り出す気? それとももう2度と陽菜ちゃんのような事が起こらないようにする為? どちらにしてもこの王様では無理な気が…… 後…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ