第92話 ガルデンからの返事①
煉瓦で造られた城の壁際にあるペチカの中で、ぱちりと薪のはぜる音がした。
ガルデンは、春の初めになってもまだ真冬並みに寒いが、ペチカのおかげで、室内は上着を脱いでも大丈夫なほど暖かい。そのペチカの側の椅子に寝そべって、赤髪をうねらせた男は、リエンラインからもたらされた書面を目で辿りながら口を開いた。
「ふん、どうやって墓場から死者を連れてくるのかと思っていたが――まさか、あの時立会人だった男の死刑が、まだ執行されていなかったとはな」
寝そべった姿で、リエンラインからもたらされた親書を無造作に読む。その瞳は、鮮やかな緑色だ。それが燃え立つようにうねる髪の色と合わさり、ひどく鮮烈な印象を与えている。
「はい。まさか王妃の暗殺未遂で捕まり、まだ刑が執行されていなかったとは思いませんでした」
「生きていたとはいえ、それを牢から出して、まさか俺への交渉役として使者に立ててくるとは。リエンラインの王も思いきったことをしてくる」
くくっと男が、面白そうに笑みを浮かべた。
「どうなされますか、陛下? こちらから出した条件には、添うように返してきましたが」
その言葉に男は身を起こし、部屋の端で控えているもうひとりの女のほうを見つめる。
「そうだな。お前の話では、たしかリエンラインのポルネット大臣は失敗したのだったな?」
その言葉に、女が深く頭を下げる。
「はい、リエンラインの王家に対する恨みから、娘を聖女に仕立てあげていましたが、それを本物に見破られたようです」
「ふん。成功して、あの王とイーリス姫を離婚させてくれれば、手間が省けたものを」
まあいいと、豪華な髪を翻しながら、ガルデン王は獰猛な笑みを浮かべていく。
「そう簡単に進んでは面白くないか。第一、それだと俺の出番がないからな」
「では、陛下」
最初に話していた男が、ガルデン王の顔を見つめる。
「新しい交渉役の使者と会われるのですか?」
「会うだけは、会ってやろうではないか。その先をどうするかは、相手次第だが――」
それにと、ガルデン王は話している家臣を見つめた。
「あのリエンラインの王は、危険だ。六年前、ルフニルツ陥落を達成したと思った矢先に、まさかあんな手を打ってくるとは――」
忌ま忌ましそうに、ガルデン王の顔が歪む。しかし、それはほんの一瞬で、すぐに面白そうに腕を組み、冷酷な笑みを浮かべていく。
「先ずは、あの王が選んだ使者のお手並みを拝見といこうではないか」