表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

126/202

第52話 三人の王妃候補②

 近寄ってきたレナが、リーンハルトの側ではしゃぎながら見つめる。


「どうか誕生日には、一番お側におらせてくださいませ! せっかくの陛下の誕生日ですもの! そして、一緒に過ごさせていただけたらどれほど嬉しいか」


 イーリスの金色の瞳が大きく見開く。


 ――それは、次の王妃だと宣言するのも同じだ。


 最初から一番近くにいて、一緒にいたい。遠回しに言ってはいるが、つまりは貴族たちの前で自分を王妃候補として扱えということにほかならない。


 小広間にいた貴族たちの目が一斉にレナとリーンハルトを見つめている。


 さて、王はどう答えるのか。人々の目には、明らかな打算と好奇の色が浮かんでは瞬いている。


「お待ちなさい!」


 慌てて叫んだ。


「陛下に挨拶をする順番は、慣例で決まっています。それを差しおいて、自分を取り立てろとは――」


「あら? わかってますわ。だからお側近くにいられれば、それより先にお渡しすることができますでしょう? それに、イーリス様は陛下とは離婚予定なのですから、今年はお側に私がいてもかまわないではないですか」


 思わず言葉が途切れた。


 見つめる下で、喉がごくりと嫌な音をたてていく。


「それは……」


「離婚されることは決定済み。ならば、今の私とイーリス様のお立場は平等であるべきですわね?」


「で、でもリーンハルトは、私に求婚書を既に送ったのだし……」


「ああ、そうでしたわね。ですが、イーリス様とご結婚されている時だって、陛下はパートナーであるべきイーリス様を差し置いて聖女の陽菜様と踊られたそうではないですか。でしたら、今回お側にいるのが聖女の私でもおかしくはないはず」


「あ、あれは……!」


 リーンハルトが横で驚いた顔をしているが、それを持ち出されるとなにも言えない。確かにあの時、まだ離婚の話は出ていなかったのに、陽菜がリーンハルトとファーストダンスを踊ったことがある。


「あれは、イーリスの到着が遅れて始まらないと貴族たちが騒ぎ始めていたから……! その時に、陽菜が代役をしましょうかと言ってきて……!」


 取りあえず、周りで囁かれているイーリスがギイトと時間を忘れて二人で過ごしているのではないかという声を消したかったから、ついと叫んでいるリーンハルトの姿に、イーリスのほうが目をぱちぱちとさせてしまう。


(そうだったのね……)


 あの時は妻としての立場を蔑ろにされて怒りを感じたが、リーンハルトにしてみれば、自分とギイトとの嫌な噂を消したかっただけなのだ。


「でも、陛下はそれで聖女様を代役に選ばれたわけですよね? それならば、今回私にも王妃の代役を務める資格はあるはずです。なにしろ、私は次の聖姫試験を受ける資格を得ましたし、それは同時に陛下の次の結婚相手になる資格もあるということですから」


 ごくっと喉が嫌な音をたてる。しかし、レナは白い蓮のような顔を輝かせながら、リーンハルトを見つめたままだ。


「どんな形であれ、イーリス様は陛下と離婚されることになったのですもの。だったら、誕生日パーティでお側にいるのが私でも、問題はないのではありませんか?」


「そ、れは……」


 声が震える。確かに離婚状は既に王宮書誌部に保管されており、二人のサインと日付も入った状態だ。


「陛下は婚約者として、イーリス様を扱っておられますが、百日後にはどうなるかまだ未定ですわ。ならば、今私が陛下のお側に立っても、かまわないはずです」


 くすっと嘲るような笑みを浮かべながらイーリスを見つめてくる。


 ぐっと眉を寄せた。


 違うのに! きちんと再婚して、一からやり直したかったからスタート地点に戻りたかっただけなのだ!


 別れようとしていたあの頃と、やり直しを始めた今では、離婚の理由も伴う感情もなにもかもが違うのに!


 なんとか気持ちを伝えようと、再度口を開こうとした時だった。


「――わかった!」


 まるで叫ぶようにリーンハルトの声が二人の視線の間に割って入ってきたのは。


 はっと振り返ると、リーンハルトがひどく厳しい顔で、こちらを見下ろしているではないか。


「リーンハルト……」


「確かに、対外的な状態から見ればレナの言うとおりだ」


 ぱっとレナの顔が輝く。


「では――」


「俺は国王で、国の決まりに従えば、次に娶るのも聖女になるだろう」


 言われた内容に、瞬間心に氷を押し当てられた気がした。


(リーンハルトが、ほかの誰かと結婚する――)


「だが、聖女が二人いるのならば、俺は二人のうち、より次の王妃としてふさわしいほうを伴侶に選ばなければならない。だから、これをいい機会として試験を行おうと思う」


「え? 試験?」


 きょとんとレナが翡翠色の瞳を瞬く。


 イーリスも怪訝な気持ちで顔をあげたが、その前でリーンハルトは二人を見つめて少しだけ笑みを浮かべている。


 そして、ふっと口元が動いた。


「そうだ。俺が今から示す過去に聖女がこの国にもたらした物。それを答えることができれば、その者を聖女としてより王妃にふさわしい知識があると認め、誕生日パーティーでは王妃に準ずる者として扱おうではないか」


「え? 問題?」


 突然言いだしたリーンハルトの行動に驚いて金色の目をしばたたくが、イーリスの周囲の貴族たちも同じだ。みんな扇で口元を隠したり、ワインのグラスを持ったりしながら、興味津々に戸惑うレナとイーリスの様子を見つめている。


 その前で、リーンハルトはにっと人が悪い笑みを浮かべた。


 そのままくるりと振り返ると、後ろで控えていたグリゴアに手を伸ばす。


「グリゴア。先ほど届いたあれを持っているか?」


「先ほどの品でございますか? 陛下がイーリス様に見せたいと仰っていたので、持ってきてはおりますが」


 なんだろう?


 首を捻る前で、グリゴアが着ていた上着のポケットから取り出したのは、小さな袋だ。


 元老院や国王が持っているには不似合いなほど簡素な――飾りの一切ない白い袋に見える。


 それをリーンハルトは手に持つと、つい今し方挨拶をしたばかりの伯爵夫人を振り返った。


「シュルワルト伯爵夫人。せっかくだから、少しだけ余興として茶器を借りてもいいだろうか?」


「え、ええ。どうぞ。今すぐお持ちいたしますわ」


 興味津々に人混みから見ていた伯爵夫人が、突然名指しをされて驚いた顔をしている。しかし、すぐに近くのテーブルから白いカップとポットを持って戻ってきた。


「こちらで大丈夫でしょうか?」


「ああ、十分だ」


 なんだろう。首を傾げながら見ていると、リーンハルトは手に持った袋からころんと一粒の黒い塊を取り出した。


 一見するとクルミのようにも見えるが、それよりも黒い。いや、クルミの皮はあんなにごつごつとはしていなかったはずだ。まるで、黒い岩の端を砕いたかのような――。


 なにかの不格好な種のようにも思えるが、それにしてはサイズが大きい気がする。


(なにかしら? どこかで見たことがあったようななかったような――)


 首を捻る間にも、リーンハルトはそれを指の先で少しだけ砕くと、開けたティーポットの中にぽとりと入れたではないか。


「えっ!?」


 驚く間にもそのお茶を二つのカップへと注いでいく。


「どうぞ。これを答えることができれば、聖女の知識試験合格と認め、その者を次の王妃候補として扱うと約束しよう」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] レナめっちゃ腹立つし、リーンハルトとイーリスの過去の行いがここにきて自分達で不利にしてて腹立つ〜!!早く2人で幸せになれー!!
[一言] 何の粉でしょう???リーンハルトの悪い笑いに期待して、イーリスにとって良い展開になりますように!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ