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第50話 今の気持ち


 ギルニッテイの街での返事――。


 聞いた言葉に、思わず体の動きも忘れてしまう。


 瞬くことさえできずにじっと目の前のリーンハルトを見つめていると、もうかなり高くなった朝日の中で、アイスブルーの瞳がゆっくりと笑った。


 さらりと銀色の髪が、肩へとこぼれる。


「え……えっと、それは……!」


 つまり再婚の返事がほしいということだろうか。動きが妙に緩慢になっていた頭が動き出すのにつれて、ぽんと顔が赤くなってくる。


 困って顔を隠そうとすると、楽しげにリーンハルトが見つめた。


「俺は――最近、君が俺を見て、時々そんなふうに赤くなっているのに気がついた」


(知っていたの!?)


 二重の意味でびっくりだ。まさか見られていたなんて――。


(ど、どの時!? 一緒に寝て起きたあと? それとも、肩を抱かれた時か頭を撫でられた時か)


 思い当たる瞬間はいっぱいある。なんとか気づかれずにすんだと思っていたのに――。


(まさか、気がついていたなんて!)


 今、ここにスコップがあれば絶対に床に穴を掘って隠れるのを強行しただろう。頼むからこれ以上見ないでと願うのに、アイスブルーの瞳は銀色の髪の側からゆっくりと笑いかけてくる。


「多分、君が俺を好きだと言ってくれたおかげだと思う。君を真っ直ぐに見ていると、今まで気がつかなかった君が見えてきて――それが俺の自信になった」


「リーンハルト……」


「再婚の約束の日までまだ間はある。だから、もし返事に悩んでいるのなら、それでもいい。今の君の持つ偽りのない気持ちを聞かせてほしい」


 たとえまだ再婚に悩んでいるというものでも。


 手を組みながら綴られる言葉は穏やかだ。


(でも、きっとあの言われた時に答えられなかったせいで、少し心配だったのね)


 いつもならば、「約束の百日を守ってくれたらね」と軽口でかわしていただろう。それができなかったのは、ギルニッテイで聞いたあの瞬間とても真面目に考えたからだ。


(とはいっても――)


 まさか、今その返事を求められるとは思わなかった。


「ど、どうしよう……」


 自分の気持ちはわかっている。ただ、口に出してどう言葉にすればいいのか。いや、そもそも恥ずかしすぎて、口から出すことさえできるのか――。


(訊かなければよかった!)


 前世今世と生きてきて、最大の難問だ。


 食事を終えたあと、悩みながら外をこつこつと歩くが、解決策は思いつかない。


「ねえ、コリンナ――」


 大翼宮の外側を通りながら、後ろについてきてくれる信頼できる侍女に思わず声をかけた。


「自分が真っ赤に焼けただれる気持ちを味わうのと、永久に、地下の穴の中で人目から隠れる心地を味わうのならば、どちらがいいと思う?」


「なんですか、突然!? 誰かを拷問する相談ですか!?」


「いえ、そうではないのだけれど……」


 拷問。言われてみれば、これはまさにこれから拷問されて、公開処刑されるような心地だ。


(人目の多い誕生日に告白なんて――)


 どうしてもうまくできる自信がない。どうしたものかと考えて、ふと俯いた時だった。


「イーリス様、危ない!」


 コリンナの慌てた声と共に横から自分の体を急いでどんと押す感触がしたのは。


 思わずよろけて、石で舗装された地面に手をつく。その瞬間だった。今まで立っていた後ろで、がちゃんと大きな音をあげて、自分がいたはずの地面に花瓶が粉々に砕け散っていたのは。


 いくらなんでも花瓶が雨のように空から降ってくるはずがない。


「誰!?」


 叫んで見上げた大翼宮の窓辺では、すっと黒い影が動いた。


 一瞬のことで誰かもわからない。


「イーリス様お怪我は!?」


「大丈夫よ、手に砂がついただけだから」


 答えながらも見上げる。いたのだ。確かに誰かが――。


 まるで歩いていたイーリスを狙って落とされたかのように。


(まさか、今度は私を狙って――?)


 無惨に砕けた破片が、自分の体がこうなることを望まれているかのように見えて、イーリスはごくりと喉を鳴らした。




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― 新着の感想 ―
[一言] ああ~っ、またイーリスが狙われている…。 リーンハルトと、いい感じじゃない?なんて、ニヤけて読んでいましたら… 気が抜けません~!
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