☆9話
混じり気無し、天然蜂蜜そのものなキャロライン。あまりにも城深く静かに住んでいた為、その手の事は知らぬままに育っていた。
「あの、キャロライン様は……お母様からお聞きになられておりませんの?それとその……お見かけしたり時とか……」
マーガレットがそう問いかける。
「わたくしのお母様は、そのようなお話はなさらずに、お亡くなりになられました。そして、次のお母様は、上から順番と仰られて、そうそう、目を閉じてたら終わるとか?見かけるとは、どこで?」
見かけるとは、何をどこで?疑問に思いつつ答えるキャロライン。その様子を見つつどう話すかと考えるご令嬢達。
……、そうですわ……アリアネッサ様ですものねぇ、側仕えのマーヤ辺りがどう話されていたのか……目を閉じてたら終わるとお教えされたのかしら。
マーガレットは策を練る。ある事を思い出し、隣の令嬢にひそひそと話す。心得た彼女はその隣に、そしてその先に……ひそひそと話がまとまって行く。そして、
「マーガレット様、従兄弟のエドワード様との、ご婚約の儀がお近いと、聞き及んでおりますのよ、おめでとうございます」
そういうと礼をとったご令嬢達。
「まあ……そうでしたの、それはおめでとうございます」
キャロラインがそれを聞き、軽く会釈をする。
「ありがとうございます。キャロライン様、皆様」
話のきっかけが生まれる。何時に婚約の儀を?エドワード様はどんなお方?としばらくは、他愛のない話が繰り広げてられていた。
「婚約の儀式が終えると、婚礼が終えるまで、しばらくは会えないのですのね。寂しいですわ」
「はい、キャロライン様、特別な理由でもない限り、館から出るのは、礼拝堂に行くときだけですわね」
寂しそうな言葉のキャロラインに、応えたマーガレット。
「……それで、マーガレット様。少しばかりお聞きしたいのですの、エドワード様とは、その……キスはされたのかしら?お二人は幼馴染でしょう?」
示し合わせた通り、話が進む。ちょっと強引過ぎたかもしれない、と思いつつキャロライン以外の乙女達は、胸をドキドキとさせていた。
「……ふふ、婚礼迄は純潔という決まりはありますけれどね、キス位なら……済ませておりましてよ、その先は婚礼の夜のお楽しみですの」
彼女達の企みに気づかない彼女、キス……その言葉が耳に入ると、昨夜の事を思い出し、はううと声を上げそうになるキャロライン。そして聞き慣れない言葉に気がつく。
「婚礼の夜のお楽しみ?」
そう問いかけたキャロライン。マーガレットは、話に興味を持った彼女に、声を潜めて問いかける。
「ええ、もちろんキャロライン様は毎夜お楽しみでございましょう?その……教えて頂きたいですの、最初は……たいとお聞きしてますが、本当ですの?わたくし達何をするのかは知っておりますが、経験はございませんの」
「何をするのですの?」
輪になり話していた乙女達の距離が、ぐっと近くなる。
「それは、鴛鴦比翼の契ですわ、キャロライン様」
「は?鴛鴦比翼……それはどのような事ですの?このお国の風習なのですか?わたくしの国では、婚礼の夜に
銀の盆に乗ったうさぎさんを食べるという習わしがあるのです……」
銀の盆に乗ったうさぎ、その言葉を聞きマーガレット達は、意味を察知をすると、きゃぁぁー!と小さく小さく声を合わせて上げた。
「いやん、キャロライン様……王子様にお召し上がりになられましたの?」
「はう?王子様に?そういえば、昨夜目の前にいるとか……」
「目の前!それはどの様な場所でしたの!」
マーガレットが機会を逃さぬ様に聞く。
「寝所の中ですわ」
キャロラインはそのままに答える。
「寝所の中!そこで何かありましたの?わたくしも初夜を控えておりますの、お教えしていただけません?」
頑張るマーガレット!
「何とは……あの、キス……をされてこら……れて、そ、それだけですわ、そう、それだけですの、そして食べられるというのは……」
これまでの事や、聞き及んだ話を考えつつ、ようやくある事に気が付き、しどろもどろになるキャロライン。
「はい?キスだけとは……まだお召し上がりになられてませんの?」
マーガレットの言葉に乙女達はワクワクしながら、キャロラインを見つめる。
「お召し上がりに……はっ!も、もしやすると……、うさぎさんとは……わたくし?え?でも食べるってどうやって?」
「フフフ、キャロライン様……、それをお知りになられたいですか?」
大人妖しく、そして甘く笑みを浮かべると、マーガレットはキャロラインに問いかける。少しばかり怖い気持ちもあるキャロライン。しかし……、ここは聞いてみたい気持ちが膨れ上がる。そしてその気持ちに素直に応じる。
「ええ、お教えして頂けません事?」
その答えに、乙女達が応じた。ひそひそ、ひそひそとかつてキャロラインがジョージと愛を誓った礼拝堂で、蜜事の真実が語られて行き……。
「は!はうぅぅぅ!ええええ!そ、そうなのです……か!そ、その様なこ、事が……上から順番に、じ、じゅんばん。はうう」
キャロラインとその場に不釣り合いな、素っ頓狂な声が上がった!
「そうなのでございます。殿下におきましては、ずうっと!ご辛抱されておられたと、思われますの。話に聞くところによると、殿方のそういう本能に基づいた欲求を押さえるのは、至難の技とか……殿下はキャロライン様のことが、大切でしたのね」
落ち着きなさいませ、皆そうやって、この世に生を受けるので御座いますよ、とマーガレットが、心ここにあらずな、キャロラインに話しかける。
「み、みんなそうやって……、は、はうう……わ、わたくし、少しばかり心が乱れて、頭がクラクラして……倒れそうですの、なのでこれにて失礼いたしますわ、ごきげんよう」
――こうしてキャロラインは少しばかり、立場相応な知識を得た事になったのである。そして……、
わ、わたくし、これから先、王子様が来られたら、どうすればいいのかしら?と彼女は聞いた大人の話が、頭の中で暴れまわり……あんなことやこんな事を思い描き……、
どういたしましょう……と、新たな悩みに襲われているのであった。