表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/20

☆8話

 ふううん……、と昨夜の事を思い出し、幾度も甘い溜め息を付きながら、キャロラインは礼拝堂で、掃除様の布を握りしめている。


「あら?キャロライン様、どうされたのですか?朝餉の後に、クロシェ夫人からご講義を受けられてから、わたくし達と共にされておられますから、お疲れでございますか?」


 マーガレットがせっせと、ステンドガラスを磨きつつ、心配そうに話しかけている。他にも数名のやんごとなきご令嬢達が、あちらこちらに散らばり、連れて来ている手伝いの侍女の手を借りつつ、せっせと拭き掃除に励んでいた。


 キャロラインとの縁組が整った折、ジョージ王子が『樽』体型がお好みという、根も葉もない噂が流れた為に、ご令嬢達は万に一つの望みを託し、食べて寝るを繰り返し望みの姿に変わったのだが……。


 キャロラインが城に姿を表した時、あわよくば……と考えていた彼女達の願いは木っ端微塵となった。太っていたのは事実だったが、それは過去の事。


 婚礼の時に、花嫁を持ち上げる儀式を知ったキャロラインは、懸命に身体を動かし、食事に気をつけ、少なくとも『樽』からは卒業していたからだ。


「………どの様にお痩せになられましたの?」


 お披露目の舞踏会でそう聞いたマーガレット達。側にはかつて、ドローシア姫に従い嫌がらせの数々を仕掛けていた、アリアネッサ姫が、隣国の王妃となって、彼女達を上から目線で眺めていた。


 気さくに窓ふきと答えたキャロライン。それを受けた王妃の言葉をマーガレットは思い出し、ゾクリとする。


「「ええ!窓・ふ・き・でしてよ、皆様。キャロラインについて、しっかりとなさいませ!キャロライン、貴方の心配りを無にされる事があれば……『褒美』をお与えあそばせ」


 その言葉と清々しいその笑顔、そして……オーホホホホ!と、その時は聞こえていない筈の王妃の高笑いが、マーガレットの心に蘇り響く。


 彼女の言う『褒美』とは……キャロラインもそれを見知っている様子だが、無邪気な彼女は、まだそれを与えた事は無い。


 皇太子妃であるキャロラインに、取り入ろうと、当初は下心を持ち、彼女に近づいたマーガレット達。しかし日々を近くで過ごす内に、穏やかであどけなく、無垢な彼女に対して、徐々に心を掴み取られていった。


「皆様とお近づきになれて、嬉しゅうございますの」


 裏表なく率直に話してくるキャロライン、誰かが意地悪に聞いたことがある。


『王子様にご側妃様ができましたら、どうされますの?』


 その問いに戸惑う事無く答えたキャロライン。


「仲良くなりたいですの、一緒にお食事をしたり、お茶を楽しみたいですわ、もし……お子が出来たら、きっと楽しいですの、わたくしはひとりきりでしたの、周りを見れば、姉やら妹やら、兄やら弟やら……書物でしか知りませんが、睦まじく揃う姿を見ると、お子は沢山おられた方が楽しいですの」


 わたくしのお父様は、お妃様は、かつてはたくさん居られましたのよ、だから色々ございました……、なので、わたくしは仲良くしたいのです。そう笑って答えた。


 隣国の後宮における、女のドロドロとした出来事は、格好のネタとなり、旅芸人達が競って流布したこともあって、書物や芝居になっていた。


『蝶は舞飛ぶ、百花繚乱、美姫が揃う花畑

 赤色の花が実を結ぶ、白色の花が湯をかけた

 赤色の花はしおしおだ、黄色の花が実を結ぶ。

 青色の花がぽきりと音立て摘み取った。

 黄色の花は茶色になって、消え去って


 蝶が舞飛ぶ、はらひらと


 紫の花が実を結ぶ、大きく大きく膨らんだ

 ある日鼠がやってきて ガリガリ、がりり

 紫の実を齧って飲み込む 花園で……』


 マーガレット達は、競って手に入れた書物や見た芝居が、嘘なのかと思ったのだが、その後ポツポツと、聞かれるままに答えたキャロラインの話に、それが盛られてない事を知った。


「わたくしのお父様は、皆で食事を取ることに致しましたのよ、お毒味の係もお父様の目の前で、配されたお皿の上から、一口取り分けられた物を、口に運んでおりましたの、わたくしもそれが良いと思いました。だって……別々だと可哀想ですの、次から次でしたもの」


「可哀想……、次でしたものから次!そんなに頻繁に」


 少しばかり悲しみ話したキャロライン。


 少しばかり驚き話を聞いたご令嬢達。


 そして仲良くしたいのですとの話を王子が伝え聞き、感涙したという。


「ああ……やはり愛するキャロライン、私は妃は生涯、彼女一人と心に決めている」


 その言葉がまたまたまた城内に流れて……マーガレット達は、側妃の立場に登る事は甚だ難しいとわかり、それ以降、条件の合うお方との婚礼話が、ぽつぽつと、進むようになっている。


 ☆☆☆☆☆


『城内では、痩身の為の運動はしないように、働く者達の仕事を邪魔をしてはなりません』


 そう言われてしまっては致し方がなく、しかし場を探せばあるもので、礼拝堂ならば奉仕作業として、公に認められる事に気が付いたマーガレット達。


 ここならば皆で集まり、どれだけ拭いても、誰も何も申しませんわ、神様に御奉仕ですものと、キャロラインにそう知恵を授けると、神官長に許可をとり集まっている次第。


 何時もならば、先頭に立っているキャロラインが、心あらずな様子で、サワサワと力なく拭いている姿を、不審に思ったマーガレットが問いかけた。


「はう!いえ何でもございませんの……」


 彼女の言葉に顔を赤らめるキャロライン。


「お顔がお赤い様ですわ、お熱でもあられるのでしょうか」


 不審に思い手を止めそう話す。マーガレットのそれに気が付いた、他の令嬢達も側近くに寄ってきた。


「いえ……、な、何でもございませんの、本当ですの、はうう」


 口々にどうされたのですか?と聞く令嬢達に、おっとりしながらも、歯切れのよいキャロラインらしからぬ、もごもごと、何かを思い出しながら応えていた。


 ほわほわとした、蕩けるような桃色の空気が、キャロラインから放たれ広がる事に、お年頃のご令嬢達は、何かを察した。


 彼女がそのような姿を見せるのは、初めての事だった。王子様との()()()()()を、少しばかり聞いてみたいご令嬢達。しかしこれまで、気配を見せることは無いキャロライン。


「嘘か真か知らぬが……、キャロライン様はキスは手の甲らしいのだが、王子の戯言についていけぬ」


 そうぼやいていた父親達の事を、マーガレット達は思い出していた。まさか……、ほんとに?どうして?小さい時より城での恋の駆け引きを、目にしている彼女達は、当然ながら耳年増である。


『王子様は……まさかの女性に興味がないとか?たまに庭師の彼と仲良く……きゃあ!男同士って…、まだ()()ことございませんの!』


 結婚するまでジョージの周りで、浮いた話等出てこない事から、彼女達はどうにかして目に止まろうとしつつ、ひそひそとそんな話を繰り広げていた。


 ……何かあられたのよ!そうに違いないわ!


 マーガレット達の目がキラキラと輝いた。もじもじと恥ずかしそうに赤くなっているキャロライン。


 こうして、聖なるやんごとなき場所で、ひそひそと、甘い乙女の話が始まったのである。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 普通はこういう世界では耳年増になりますよね。 キャロラインの方が奇跡です。
[一言] キャロラインたんは本当に良い子( ˘ω˘ ) いつまでも見守っていたい( ˘ω˘ )
[良い点] おおー♡ 女子バナ♪ 最強アシストかもしれませんね! たとえの歌が相変わらずうまいのです……!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ