☆7話
薄白い光満ちる閨の中で、キャロラインは横になり、話をしている。ジョージは身体を起こし、本を膝の上に開いたまま話を聞いている。時折疑問を話に挟む。
「アイリスが婚礼を上げた夫婦は、その後、銀の盆に乗ったうさぎを共に食べると言ってましたの、お父様はそれはもう、美味と仰られて……、その時はお母様はお話されませんでしたから、後日お聞きしたのです」
彼女の言う『お母様』とは、隣国の王の元に後妻として嫁いだ、ジョージの妹アリアネッサの事。彼は懐かしく思いながら、どう答えたか?と問いかける。少しばかり訳がわからぬジョージ。
『銀の盆に乗ったうさぎ』とは?彼女の話を頭の中で組み立てて行く。
「お母様は、お兄さまにお聞きしてと……、わたくしも陛下に教えて頂きましたの、とお話に」
「は?私に聞けと?アリアネッサが?なんだろう。銀の盆に乗ったうさぎ……うさぎ。他に何か聞いてない?」
私も知っている事なのか?彼の脳裏に、隣国の国王の姿が浮かぶ。偉丈夫で思慮深く、そして女性の扱いが達者な姿を。
「他に?ええと、何かあったかしら、ああ!そうそう、何処で?とお聞きしたら『寝所』で、とのことですの。そして『目を閉じてたら上から順番』と、教えて頂きましたわ」
上から順番ってなんの暗号なのでしょうか?王子様はご存知?と、あどけない少女そのもので聞いてくる、ああ……キャロラインは、少しばかりおバカなのだろうかと、つい思ってしまった彼。
……、いや、疎い、いや、お馬鹿、いや……、夫婦、寝所、目を閉じてたら上から順番迄聞けば、おおよそ分かるものではないのか?それか薄々知っていて……か?
「んー、そうか……じゃあ試しに目を閉じてみたら?そのうさぎとやらが、ここに姿を表すかもしれない」
「?王子様が、それをお捕まえになられるのですか」
目を丸くして聞いてくる彼女。ああ……何だったかな?そう『馬鹿な子ほど可愛い』というのだったか、と思うジョージ。まさに彼にとって、愛の神の思し召しが、来たかの様な状況下。ドキドキ感満載でそうだよと優しく話す。
「じゃあ、試しに目を閉じてみます、捕まえたら見せて下さいましね」
無邪気にそう言うと、言葉通りに瞼を閉じたキャロライン。本を閉じ枕元に置くと、行動に移す。
「あ、君の肩にそれっぽいのが……」
「目の前に来てますの?こんなに早くに?」
肩に触れるジョージ
「うん、目の前にいるよ」
それとなく『うさぎ』とは誰を示すのか、話すのだが悲しい事かな、わかっていないキャロライン。とんちんかんなやり取りがされている。
「目の前に!見たいのですの!」
パチッと目を開いてしまった彼女。鼻先寸前にジョージの顔があった。ふぉぉ!近いのですの!目を見開いたままに、少しばかり驚き息を飲んだ。
一方ジョージもたじろいだ。彼は先ずは、キスから始めようとしていたから……、寸前で彼女が思いもよらぬ行動に出てしまったが……本能と煩悩が入り混じり、燃え立つ今!止め様が無かった。
「はうん?………!?んん!」
キャロラインはびっくり仰天、いきなり口を塞がれてしまい、息が出来ないと慌ててしまう。
……なんですの!は、はひ?わたくしこのまま、息が出来なくて、死んでしまいますの!く、苦しくなってまいりましたの!ど、どうした……ら?
上からジョージが覆いかぶさっている為、、動きを制限されている。その中で取り敢えず呼吸を確保しようと、モゾモゾ動くと、余計に苦しくなってしまい……
「おわ!キ、キャロライン!大丈夫か!い、いきなり『キス』して悪かった!」
ジョージの下で、ぐったりとなってしまった。慌てて少しばかり離れた彼。
「……フウフウ……く、苦しかったですの、お、王子様、怖かったですのぉぉ……、は?い、今なんて仰ったのです?」
す~はす~は、と息をしながら、青い瞳に涙を浮かべる彼女。キャロラインはジョージの言葉に引っかかっる。
「今、キスって仰っられて……はうぅ、も、もしかして、もしかして、『キス』とは……ふうぅ、わ、わたくし今宵は、帰りますわ」
戸惑うジョージ、わけが分からなくなり、滂沱に涙を流すキャロライン。
「あ、う、ん。わ、わかった……」
「王子様の事は大好きですの、でも、でも、今日は一度帰ってから……明日またお会いしとうございます」
「わ、わかった、私も愛している、明日また君の元に行くから……」
泣き泣き話した。こうしてキャロラインは、館に帰りその夜は、共に暮らし始めてから、初めて別々の寝室で過ごした。
あれこれと考え、寝付けぬキャロライン。
あれこれと想い、寝付けぬジョージ。
上から順番って、先には何があるのかしら、驚き苦しかったけど、その時を思い出すと頬が熱くなるキャロライン。寝具にくるまり、頬を両手で包んでいた。
帰ってしまった……やっぱり突然はダメだったか……。暗く悩みつつも、帰る時に、自分の事は大好きと言ったキャロラインを想うジョージ、そして初めて触れた甘やかな感覚に、ドキマギとし……
彼はそのまま朝まで、寝付けぬ時を悶々と、隣に残る残り香を慰めとし、一人で過ごしたのだった。